はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ハイキングデビューに関する反省文

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昨日はスイスのフリムスという山岳リゾート地にあるTrutg dil Flemというハイキングコースを下った。本格的なハイキングのデビュー戦がスイスアルプス、しかも、スイス・ハイキング・アワード2014のグランプリを受賞した有名コースを歩くという、話す相手によっては激高させてしまいかねない贅沢な体験だ。

基本的にインドア派の僕がわざわざアルプスを歩いたのは、「そこに橋があるから」という理由にほかならない。構造家のユルグ・コンツェット(参照:技術の重ね方)が5年の歳月をかけて育て上げたハイキングコースに、7つのステキな歩道橋が架けられているのだ。なお、たいへん光栄なことに、コンツェットご本人にこれらのコースや歩道橋について伺うことができたので、詳細は後日何らかの形で報告したい。

コンツェットへのインタビューをセッティングしてくれたのは、ドイツ南部のケンプテンという街に住む友人だ。ハイキングの前日は彼の自宅に泊めてもらったのだけど、そこを出発したのは、予定時刻を大幅に超過した11時過ぎ。彼の家族と一緒に、のんびり朝ご飯を食べたためだ。これについては、ほんとうに素晴らしい時間が共有できたので、よしとしよう。途中でちょこちょこ寄り道しつつ、若干のトラブルに見舞われながら、フリムスに到着したのはすでに15時近くになっていた。

ここで大いにあせる必要があったが、雄大なアルプスの絶景を目の当たりにして、時間の感覚が吹っ飛んでしまった。リフトを乗り継いで出発地点に到着したとき、さらにパノラマの絶景にテンションが上がりすぎてしまい、レストランのテラス席でうっかりちゃんとした食事を注文し、うっかり大ジョッキのビールを注文してしまった。その結果、実際にハイキングをスタートしたのは、なんと16時20分。

ちょっと待て。普通に歩いても2時間くらいかかるという情報があった気がするぞ。橋を丁寧に見ながらだと3時間くらいはゆうにかかるよね。まあ仕方ない、とにかく橋を見ながら降りることにしよう。でもちょっと待て。途中からリフトに乗って下山する手はずだけど、18時で運行が終わるじゃないか。これってどうやっても間に合わないぞ。さっき買ったチケットを無駄にするのはいいとしても、暗くなる前に下山できるのか。まあ仕方ない、とにかく橋を見ながら降りることにしよう。。。

そんなわけで、全区間を下るという予定外の行程を終えて駐車場に戻ったのは、ちょうど20時。体力的にはボロボロになったけど、素晴らしい体験ができた。でもその前に、しっかり計画を立てて、それを的確に実行しながら臨機応変に対応する理性を保たなければね。今回はラッキーなことに事故などはなかったけど、山をなめちゃいかんよな。反省しています。

渓谷を跨ぐ彫刻作品

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オーストリアの山奥で、急勾配と急カーブの道をぐんぐん登り、すれ違いを許さない狭隘な素掘りトンネルをいくつもくぐり抜け、そこを走り抜けるフルサイズの路線バスにおののきながら、レンタカーを走らせた。そして、Marte.Marte Architektenという建築設計事務所が手がけた美しいコンクリート橋、Schanerloch Bridgeに至った。

地形や道路線形といった架橋条件を読んで、桁下面をねじる造形にしたのだろうか。そうしなくてもいい気がしなくもないが。厳しい自然環境の中に彫刻的な人工物が挿入されている風景は、とても緊張感に満ち溢れていた。ちなみに、Marte.Marteによるシリーズの橋はすでに2つ架かっており、現在3つめが建設途中だった。新たな橋梁巡礼スポットになりそうだね。

ミュンヘン地下鉄駅巡り

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ミュンヘンの地下鉄の駅空間は、内装パネルや照明などによる演出がなされ、ユニークな空間がチラホラあることを、5年前の訪問時にうすうす気付いていた。ここ2日間のミュンヘン滞在はたびたび冷たい雨に降られているので、必然的に地下鉄駅巡りが最高の都市観光プログラムになっている。つまり、一日乗車券を購入して地下鉄に乗り込み、気になった駅で降り立ち、次の電車が来るまでその駅を鑑賞することを繰り返しているわけだ。

U1のGeorg-Brauchle-Ring駅を堪能し終えたとき、それまで僕の様子をチラチラ見ていた紳士が「君はどこから来たのかね?」と声をかけてきた。少しドキッとしたのだが、簡単な自己紹介をすると、彼はミュンヘンの地下鉄について的確で楽しい解説をはじめてくれた。

1972年のオリンピック開催に合わせて整備された地下鉄駅の中には、様々なアーティストと協働して空間をつくったものがあること、ホーム上のマップの脇にそれぞれの駅の解説が書かれていること、照明アーティストIngo MaurerによるWestfriedhof駅の空間が一番ステキで、それは隣の駅だよと教えてくれた。そして一緒に地下鉄に乗り込み、次の駅で降り立つ僕を笑顔で見送ってくれた。

彼が言っていたとおり、この駅空間はとても魅力的だった。壁面は粗い仕上げのコンクリートで上から天井とともに青いライトが当てられており、島式ホームには大きな半球状の傘が程よい間隔で並んでいる。その傘の内側は黄色、オレンジ、青といったビビッドな色で塗装されている。ポップながらも気品がある質の高い空間は、感激できるレベルになっている。

ヨーロッパに来るたびに思うことだが、自分の街を外国人に自慢できるって、本当に素晴らしいと思う。翻って千葉や東京の魅力を同じように紹介できるかというと、全く自信がないなあ。