はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

駅前エレベーター橋

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ボーデン湖畔のロールシャッハという街に、駅と駅裏の住宅地との高低差を解消するリフト付き歩道橋があるというので行ってみた。これが、ミニマルで雑味がない造形と仕上げの中に知的な色気を織り交ぜるという、いかにもスイスっぽいかっこよさを存分に体現している構造物だった。

地下通路に接続するエレベーターの高さは30m、デッキの橋長は40mとのこと。当初は橋梁部分は箱断面だと思って見に行ったのだけど、写真反対側の開口部が大きすぎてよくわからなかった。

このタワー部の駅側には、ボーデン湖を眺めるバルコニーが設けられている。エレベータそのものも、もちろんシースルー。そこからは、デッキの軸線が古い駅舎の中心にきっちり合わせられていることも確認できるよ。

ちなみに、この街と同名の心理テストは人名由来なので、直接の関係はなさそうだね。

 

穏やかな謎の国

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5年前のスイス訪問時にもリヒテンシュタイン公国へ行った。しかし、さらっと通過しただけであり、写真すら一枚も撮っていなかったので、もしかすると本当は行っていないんじゃないかなどと思うようになった。このため夏のアルプスドボクツアーでは、ちゃんと車を止めて何らかの写真を撮ることを大きな目的のひとつに掲げ、ついに実現することができた。上記写真は、首都ファドゥーツにある国会議事堂前の通りと広場。崖の上にチラリと見えるのは、リヒテンシュタイン家が暮らすファドゥーツ城。首都の目抜き通りはとても質感が高く、とても穏やかな印象だったな。

外務省のデータによると、リヒテンシュタイン公国の国土面積は160km²、人口は3.7万人(2014年)とされている。日本の市区町村のデータ(国土地理院および各市区町村の統計資料)を参照してみると、茨城県かすみがうら市(面積:156.6km²、人口:4.2万(2015.9))、新潟県小千谷市(面積:155.2km²、人口:3.6万(2016.6))のスケール感に近いことがわかる。ちなみに神奈川県川崎市(面積:143.0km²、人口:148.9万(2016.9))と比較してしまうと、一気に現実感が無くなる。

この小さな国はどうやって維持されているのかが気になったので、やはり外務省のページを参照してみた。どうやら、国家機能のかなりの部分をスイスに「外注」しているらしいね。たとえば、国防、外交、通貨など。軍隊は1868年に解消して非武装中立政策をとっているし、1919年のハプスブルク帝国の崩壊時に領事業務の利益代表をスイスが行うことに合意しているし、1923年にスイスフランを導入している。主要産業は精密機械と医療機器と記載されているが、どうやらタックス・ヘイヴン(租税回避地)としての金融機能も担っているようだ。ここからの税収が多いためか、国民の直接税は「なし」とのこと。

まあ少し調べただけではよくわからないな。というか、ますます謎めいた国に思えてきた。もともとオーストリアの貴族だったのになんでスイスと仲良しなのかとか、スイスとの関係を保証する根拠ってなんなんだろうとか、スイスは国民皆兵だけどリヒテンシュタインはどうなんだろうかとか。それに、どうやらリヒテンシュタイン公は、現在もオーストリア国内にリヒテンシュタイン公国よりも大きな面積の土地を所有しているらしいし。機会があれば、また訪問したい。

世界遺産のお手入れ

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地域を代表する産業遺産の保存活用は基本的に大賛成なので、先人たちの努力によって維持されてきた富岡製糸場には大きな興味がある。2007年に一度訪問した際、社会的背景なども含めてなんとなく理解したので、2014年に世界遺産登録されたことは、素直にうれしいと感じた。そして、9年前には随所で感じた少々ぞんざいな扱い方がどうなったのか、確認したいと思っていた。そして先日、再訪する機会を得た。

以前とは見学できる範囲や箇所が少し変更されていた。一番大きな変化を感じたのは、繭乾燥場がばっさりなくなっていたこと。なんと2014年2月の大雪で半壊してしまったとのことである。修復のためにほとんどの部材が撤去された現在は、ぽっかりとした謎空間が生まれていて、それはそれでシュールでかっこいい風景だった。いずれ元の姿に復元されるからこそ、この眺めも憶えておきたい。

かつての姿を維持していくことって、たいへんな労力とコストがかかるだろうけど、よい形で引き継いでいただきたいねえ。そのためには、多くの方が価値を共有することが大事だよねえ。スクラップアンドビルドが正解だと信じ切っている人々も含めて。そう考えると、ホワイトな労働環境を前面に押し出していくガイドってのは、今の時代にぴったりなんだと思う。