はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ドボクの集積ポイント

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フォルトキルヒの繊細なトラス歩道橋から上流を見ると、なにやら新しそうな屋根付き木橋が見えたので、近寄ってみてみることにした。その木橋自体も様々な工夫が取り入れられていて面白かったのだが、さらに上流に目をやると、なにやら堰堤らしきものが見えた。しかも、中央部から沿岸の住宅の存在を意に介さないかのごとく、ダバダバ越流していた。どうも水力発電施設っぽいたたずまい。

これは当然、近づける限界のところまで行ってみようという気持ちになるよね。右岸川の複数のアパートには公共通路があるように見えるし。結局笑顔とともにずんずん進んだのだが、いっこうに立ち入り禁止にならない。むしろ、魚道の真上、ガラス越しの発電タービン、ちょっとしたポケットパークを取り囲む魚道観察コーナーなどがあり、最終的には堰堤の天端にまで登ることができた。どうやら「一般に解放された発電所」だったのだ。なんて大人な土木なんだろうか。

 ドイツのケンプテンの発電所では、騒音や振動に対する過剰なまでの対策が行われていたが、フェルトキルヒではやりたい放題の雰囲気。時代背景からくる方針が大きく違っていたんだろうねえ。

長い延長に渡って壁面のようにそそり立つ地形の中に、この一点だけ狭隘な谷によって抜けるようになっている。そこには河川も道路も要の地として集約される。現地に行くまで全くそのことを意識していなかったのだが、周りの地形との関係性を見て、ようやくこの地点がなりふり構っていられない切迫した状況にあるということに気がついた。ややこしい部分って、いろんなドボクが集積するんだなあと思った時点で、日本橋の風景を思い出した。あそこも様々な人文的条件の集積地だもんね。ややこしや。


繊細なトラスが架かる街

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僕がドボク旅行を計画する際には、ぜひとも行きたいという大きなアンカーポイントを最初に設定し、それらを結ぶように周辺地域のサブコンテンツを探していくという方法を採っている。オーストリアのフェルトキルヒという街は、そんな中で経由地としてピックアップした街であり、ネット上の情報も少なかったために正直なところ全く期待していなかった。

いつものようにデータベースサイトのStructuraeをぐりぐり見ていたところ、Feldkirch Footbridge(Illsteg Feldkirch)の項にある一枚の写真がふと気になった。1989年につくられた支間長36m、幅員4mの小さな鋼トラス歩道橋だ。ちょうどルート上に乗りそうだったので、ふらりと立ち寄ることにした。これが大正解。実に軽快で繊細に組まれたトラス橋であり、うっとりしてしまうレベルの素晴らしい歩道橋だった。多くの人がナチュラルに使っているのが、またよかった。

旅行中に様々な場面でお世話になった友人にこの橋のことを報告したら、その直後に見に行ったとのこと。そして、イル川の氾濫時にはクレーンによってこの橋がリフトアップされ、河川阻害物にならないようにする事実を読み取ってくれた。いやもう、なにかとすごいな。軽量感は伊達ではなく、本気で軽量化を図った結果だったわけだ。

フェルトキルヒは他にもステキな土木構造物が複数ある上に、チラリと横目で見ただけでも中世の雰囲気が色濃く残っているステキな旧市街があった。また、街を貫流するイル川を含めた地形が、とても不思議なんだよね。機会があれば、ぜひ再訪したいな。

薄い板

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スイスのフライエンバッハという街の南にある、高速道路の上空に架けられたビルヒェルヴァイト(Bircherweid)歩道橋。高低差がある場所を驚異的に薄い板だけの構造物は、なんと1965年につくられた世界初の吊床版歩道橋だという。少々道に迷いながらたどり着いたこの橋の上で飛び跳ねてみたら、見た目の通りに簡単に揺れた。高速道路の上だと必要以上に恐怖感が増すね。

やんちゃなまでに軽量な構造を追求したこの橋は、緊張感のあるミニマルな美しさを獲得しているように感じた。補修や補強の手はちゃんと入っているらしいが、もともとの価値を下げることにはなっていない。緩やかなカーブを描く橋の上からチューリッヒ湖を見下ろしたときの風景も感動的。もちろん最後の締めとして、高速道路から見上げることでその薄さを噛みしめた。

この橋のことは、スイスに行く前に読み直した「Footbridges―構造・デザイン・歴史」という書籍で知った。たいへん贅沢なことに、この本の訳者の一人に連れて行っていただいた。この本、内容もビジュアルもたいへん素晴らしいのだけど、値段がお高くて容易に勧められないんだよね。もっと多くの方に目に止まるといいんだけど。

 

Footbridges―構造・デザイン・歴史

Footbridges―構造・デザイン・歴史

  • 作者: ウルズラバウズ,マイクシュライヒ,Ursula Baus,Mike Schlaich,久保田善明,増渕基,林倫子,八木弘毅,村上理昭
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2011/02
  • メディア: 大型本
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