はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

抜け殻になったコンテナターミナル

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タンジョン・パガー・コンテナ・ターミナルのあの感動を再び味わいたくて、2年半ぶりにシンガポールを訪れている。そのターミナルを一望できる高層高級住宅を訪問したのだが、窓の外を見るなり腰が抜けた。なんと、広大な敷地がほぼ空っぽなのだ。色とりどりのかわいい箱たちはほとんど置かれていないのだ。黄色や緑のキリンたちはどこか寂しそうに身を寄せ合っているのだ。えええなんでなの?お正月休みなの?大恐慌なの?などと慌てふためいた。少し落ち着いてから眺め直してみると、これはこれでたいへん面白い。そして、この事態がなんなのか、ネットで少し調べてみた。

すると、シンガポールの各地に分散しているコンテナターミナルをトゥアス地区に集約する動きがあるという情報が得られた(AsiaX|シンガポールの港移転計画)。集約による効率化とともに、コンテナ船の大型化に対応するためだそうな。ちなみにトゥアス地区の築港事業には日本のゼネコンも参加しているみたいだし、新たなコンテナ管理システムやガントリークレーンも日本の商社やメーカーが参入しているみたい。宿泊地の机で少し調べれば、いくらでも情報が出てくるってすごい時代だよなあ。そしてなんと、目の前のコンテナターミナルはわずか5日前の12月31日に閉鎖されたばかりらしいのだ(Seatrade Maritime News|Could this be the last containership to call PSA Singapore's Tanjong Pagar Terminal?)。あああなんというタイミング。まあでも、この状態を真っ先に見ることができたというラッキーを受け入れるべきだよね。シンガポールの国家戦略のスピード感を実感できたことを喜ぶべきだよね。うん。

ところで、一部に置き去りにされた青いコンテナがあり、たいへん不思議に思った。望遠レンズでコンテナの側面を確認すると「HANJIN」の文字が。あれ?聞いたことあるなと思って先ほどと同様にネットで調べると、昨年8月末に経営破綻した韓国の韓進海運のものであることがわかった。ああこれって手数料が払えずに積荷を動かせなくなって、世界中の物流が大混乱したやつだ、ということを思い出した。なんと、その荷物が閉鎖されたシンガポールのターミナルに残されていたのだ。そんな背景を知ると、このシーンの視覚的な説得力がすごいことがわかる。これからいったいどうなるんだろうね。

ともあれ、在りし日のタンジョン・パガー・コンテナ・ターミナルの様子を、2年半前につくったタイムラプス動画でご確認ください。


Singapore Container Terminal [HD]

ジェンガ住宅

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明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

今年はシンガポールからスタートを切っている。知り合いを頼って冬期休業期間中に総戸数が1000を越える巨大HDB(公団住宅)の「インターレース」に潜入させてもらえる段取りをしていたら、元日に限定されてしまったためだ。それじゃあ仕方ないと、12月31日の深夜便でシンガポール入りしたってわけ。

年末にたっぷり仕事をしてしまったことと、飛行機の中でろくに寝ることができなかったことと、いきなり高温多湿の熱帯に飛び込んでしまったことなどが重なって、かなり疲弊した状態だった。チャンギ国際空港に到着して、すぐにタクシーでインターレースの内部におじゃましたら、その圧倒的な空間におかしなテンションになってしまい、体はさらにボロボロになってしまった。

そして本日は、その姿がよく見えるホテルに宿泊している。お正月休みだからか、少し部屋の灯りが少ないような気もするが、それはまあいいだろう。おかしな国だと言うことは、十分に理解できる眺めなので。明日以降もおかしなものを見て回ろうと思う。体をいたわりながら。

 

私的ドボク大賞2016

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さあ今年は早くも大晦日。今年も個人的な歳末恒例行事『私的ドボク大賞』を催行しよう。これは、僕がその年に体験したドボク的ネタを振り返り、僕が最も感激したものを選定し、僕が心の中で表彰するという、完全な自作自演で誰も共感できないアワードである。

2014年からノミネート作品をツイッターを用いてピックアップし、そこから最終候補作品を絞り込む方法を採用している。それらを早速見てみよう。

これら17のノミネート作品を精査した結果、以下の3つの作品が最終候補として選出された。

 

1:土木展|これまでの土木系展示会のスタイルから大きく逸脱した展覧会。個人的には企画、展示作品、物販、トークイベントなど多岐にわたって関わらせていただいたことで、たいへん勉強になった。賛否両論いただいたが、自他共に歩を進めることができたと捉えている]


2:アルプスのハイキングコースTrutg dil Flem|アルプスに抱かれた山岳リゾートの街・フリムスにつくられた、美しい沢沿いを歩くハイキングコース。ヨルグ・コンツェットが考え抜いてデザインした7つの歩道橋が架けられている。インドア派の僕でもアウトドアの魅力の一端が理解できた] 


3:阪神高速のジャンクション群|出張帰りにふらりと立ち寄った都市内のジャンクション群。重層化した都市土木の難しさを体感できる。これまでも部分的には見ていたものの、まとめて一気に鑑賞するとそのすごさがよくわかる。ついでに、パソコンを持ちながら革靴で巡るものではないこともよくわかった]


さてさて、以上の3つの最終候補から投票しよう。もちろん投票権は自分しか持っていないんだけどね。

 

よしっ!!今年の私的ドボク大賞は、[2:アルプスのハイキングコースTrutg dil Flem]に決定だっ!!

 

ハイキングの翌日に、コースを監修して橋を設計したコンツェットご本人から、いろんなお話を伺うことができたってことは大きい。本当にやさしくて真摯な方だったし。高密度で巡った夏のアルプスツアーを代表するノミネート作品だけに、最終投票の際には議論が紛糾することなく素直に決定した。ツイートのまとめからも、旅行コンテンツのみっちり感を思い出すことができる。

 

今年はそもそも出張が少なかったことや、写真が公開できない現場への取材などがエントリーできなかったことなどにより、高水準のノミネート作品数がこれまでよりも少なかった。このため、大賞候補を大胆に絞り込むことができた。昨年もそうだったけど、基本的にインプットからアウトプットにじわじわシフトしていると考えられる。「土木展」がエントリーされたのはその証左だろう。そうは言っても、インプットがなければ回っていかないことはよくわかっているつもりなので、来年も積極的にいろんなものを見て回ろうと思う。

 

そんなわけで、このブログをご覧くださった多くの方々、まことにありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。