はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

街の記憶

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1ヶ月ほど前だったろうか。自宅の最寄駅のロータリーに隣接した一角が更地になっていた。生命保険の会社のビルだったと思うのだが、どんなビルだったか全く憶えていない。

日本において、多くの人に利用されている駅前の風景は、更新し続けているように思う。自分がよく利用していた駅の20年前の様子をしっかり記憶している人なんて、ほとんどいないのではないだろうかね。当時僕は札幌に住んでいたけど、当時の南口の風景を思い出すことなど、全くできないなあ。

ブルーシートに砂袋が点在しているこの風景は、ほんのわずかな期間しか見られないのだろうけど、なんとか記憶にとどめておきたい。正面のビルのステキな配管とともに。

構造の理解の仕方

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多少なりとも橋梁設計に触れていた身からすると、映画や漫画の世界に登場する橋にびっくりすることがある。例えば、メインケーブルが切断されているのに全体が崩落しない吊橋、中央の橋脚によってやじろべえのようにバランスを保っているアーチ橋、橋脚なしにタワーとケーブルが空中で成立している斜張橋、などなど。玄人の立場から素人の無知を一笑に付すことも可能なわけだけど、構造システムなんて考えたこともないごく普通の人々が、どのように目の前の事象を理解しているのかを知る手がかりだと捉えると、がぜん興味が湧いてくる。

ずいぶん前のことになるが、僕の恩師はこれに似たような現象に対して「folk physics」という言葉で説明していた。鉄道橋のトラス部材は車両が落ちないようにするためのものとか、斜張橋のケーブルはタワーが倒れないように引っ張って支えているものとかね。直訳は「民俗物理学」だけど、僕は物理的現象に対する一般的な認知の仕方であり、自分にとって理解しやすいように組み立て直す現象なのではないかと解釈している。こうした事例を「民間伝承ドボク」とでも題して集めてみようかと思っているのだけど、そう思い続けてもう5年以上は経っている気がする。

それはさておき、そんな素人っぽいアイデアが実物として目の前に現れると、ものすごい勢いで慌てふためくことになる。それはもう魔法にしか見えない。ロンドンのロイヤル・ビクトリア・ドック橋もそのひとつ。タワーとケーブルによって中間の橋脚がない構造を実現している斜張橋のようなトラス橋。この橋の前で、自分を納得させるまでにえらく時間がかかったことを憶えている。そんな気分になった橋を、いくつかピックアップしておくね。

 

 

ダム前の橋

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カリフォルニア州のオロビル・ダムの非常用洪水吐きに大きな穴が発生し、さらなる大きな災害に備えるために大規模な避難命令が出されたことが報じられた。甚大な被害をもたらしかねないダム災害に思いを馳せていたところ、イタリア北部のヴァイオント・ダムのことが頭をよぎり、5年前に訪問したときの写真を眺め直してみた。湛水試験中に大規模な地すべりが発生し、ダム湖の水が高い壁となって下流の村々を襲い、2000名以上の方が犠牲になったという、極めて悲劇的な廃ダムだ。

その堤体の直下には、とても魅力的な橋が架かっている。ダブルデッキの上部は導水管、下部は車も通れそうな管理用通路となっているようだ。鋼製橋脚が方杖ラーメン風に斜めに配置されていたり、アーチのような圧縮力が入っていそうな鈑桁を混在させたり、道路の桁をケーブルを吊ったり、防護ネットらしきものが上空に渡されていたり、いかにも固そうな岩盤に囲まれていたりと、近くからじっくり眺めてみたくなる。とても到達できそうもない場所だけどね。

ダム自体は廃止されて機能していないけど、この橋はどうなんだろうかね。なんだかんだ言って堤体のメンテナンスは必要なんだろうから、この橋もメンテナンスし続けなければいけないんだろうなあ。