はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

まちの記憶の更新

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熊本市役所のすぐ近くのアーケード街にひょっこり姿を現した「ダンメン」が、たいへん見事で感激した。通行人の多い繁華街だったので視線が若干気になったんだけど、しばらく佇んでじっくり鑑賞せざるを得ない迫力だった。

建設以来はじめて露出したであろうコンクリートブロックによる図像として、木造二階建ての家屋のフォルムが鮮やかに浮かび上がっている。ビルの壁面全体をキャンバスと見立てると、テクスチャーの差異の現れ方が絶妙なバランスで構成されていることに気付く。ベニヤ板によってふさがれた窓、モルタルの奥にうっすらと感じられる柱と梁の存在、木造家屋の名残かもしれないやつれたトタンなど、見れば見るほど味わい深さが増してくる。

このまま手前側に新たなビルが建設されるのか、コンクリートブロックの表面を手当てしてからなのか、いずれにしてもかつての街並みの記憶を示すこの眺めは、すぐになくなってしまうだろう。そう考えると、とても幸運なタイミングでここを通ったという気分になってくる。うん、やはり人目を気にせずに鑑賞したことで、僕は得していたんだね。

 

 

清正への挑戦

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熊本地震の直前に放送されたブラタモリに登場した「鼻ぐり井手」を見に行った。1608(慶長13)年、新田開発のために加藤清正がつくったとされる農業用水路の施設であり、穴の空いたフライングバットレスのような壁が連続しているものだ。水路を流れる水に渦を生み出して攪拌し、阿蘇山からの火山灰を沈殿させないようにするのだという。底ざらいが難しい急峻な掘り割り区間における独創的な工夫である。

思っていたよりもずっとスケールが大きい構造物であり、加藤清正の土木力のすごさが実感できる。ノミの痕跡や階段などが残されており、苔むして若干風化した表面からは、やたらと古代遺跡感が放たれている。熊本空港を利用される際は、ここに立ち寄ることを強くお勧めしたい。

ただ、視点場となる公園の整備はいただけない。鼻ぐり井手を眺めるステージの存在感はとても大きいし、舗装のパターンもノイジー。なまこ壁風のトイレやいかにも既製品の四阿には文脈が感じられない。決定的なのは、ちょうど設置工事が行われていた「モニュメント」である。上の写真で言うと、トイレと四阿に挟まれたせせこましい空間にあるグレーの箱状のものだ。なんと、鼻ぐりのひとつをFRPで再現しているもの。ぐうの音も出ないほど素晴らしい本物を目の前にしながら、いかにも違和感がある贋物を用水の方向と直交する向きに設置するなんて、加藤清正を馬鹿にしながら勝負を挑んでいるようにすら感じたな。

クレーン・フェス

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市電に乗って熊本の交通センター(バスターミナル)の脇を通ったところ、あたかも熱気に包まれたフェスが行われていると錯覚するほど、数多くのクレーンやパイルドライバがじゃんじゃん稼働していた。そりゃもう、かっこよさにしびれるよねえ。その時は別の目的地に向かうために指をくわえながら通り過ぎたのだけど、当然のごとく帰り道では下車して、遠巻きからそのスケールの大きさを堪能した。
ホテルに戻ってからこのフェスのことを調べてみると、九州産交グループが主体となって取り組んでいる「桜町地区第一種市街地再開発事業」であり、約3万㎡の敷地にバスターミナル、商業施設、ホテル、マンション、コンベンション施設などが一体となった巨大複合施設をつくるとのこと。多くの自治体が参画している、いわゆるMICE施設のようだ。
熊本地震の影響で計画が遅れたようだけど、2019年夏の完成を目指して今年の2月1日に本格着工したとのことなので、現在は基礎工事が行われているのだろう。震災からの復旧もまだまだ道半ばではあるけれど、こちらの再開発ともうまくバランスを取りながら、ぜひとも成功に導いていただきたいと思った。