はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

批評的住宅展示会

f:id:hachim:20171030212813j:plain

東京国立近代美術館で開催されていた「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」はたいへん面白かったので、その感想などをメモしておこう。昨日が最終日だったのにいまさら感がすごいわけだが、なんだかんだと訪問したのがギリギリになってしまったので仕方ないよね。現地に行けなかった方は、図録である「新建築住宅特集2017年8月別冊/日本の家 1945年以降の建築と暮らし」を入手されるといいだろう。

自分が建築物に対して積極的な興味を持つようになってから、特定の建築家やムーブメントをフォーカスした展覧会はちょいちょい見てきたけど、正直なところ作家性をグイグイ突きつけられて、胃もたれや食あたりを感じることも多かった気がする。しかもたいてい大きな建築物が中心だったし。ところが数多くの個人住宅を取り上げたこの展覧会は、鑑賞者たる自分に選択権があることを明確に意識しながら、主体的なワクワク感を保ちながら全体を見て回ることができた。個々の展示物の物量とこってり感は凄まじいものの、総体としては多様な方向性を概観でき、かつそれらが的確に整理されていたので。

そうした印象を抱いたのは、国際交流基金がバックアップして、ローマのMAXXIとロンドンのバービカンセンターを経由してから日本で開催したってことが効いているのだろう。つまり、世界に対して「現在の日本国の姿をどう見せるか」を勝負所に設定したんだろうね。それは展示物の量によって表現されていたけど、すべてを受け止める前におなかいっぱいになっちゃうことがジレンマだと思ったな。

僕の理解が適切かどうかはさておき、近代日本の住宅の系譜を紐解くの整理の仕方は、あくまでも社会環境の変化をベースにしているようだった。建築界において正統な理解の作法であろう「様式」、社会の構成要素としての家族や人を捉えた結果として表れてくる「都市」、標準化や規格化などを含む社会を動かす経済活動に基づいた「産業」という3つの概念に基づき、そこに時間軸を導入することで13の系譜を提示する構成になっていた。この系譜には「日本的なるもの」「遊戯性」「すきまの再構築」など、魅力的なネーミングがなされていた。このアプローチから、近代日本の変遷を概観するためにたまたま「個人の家」というアイテムを用いたと勝手に理解するようにしたので、自分が持っている興味にがっちり符合して痛快な気分で展示に接することができたんだと思う。

だからこそ気になったのが、「建築家」という人物を軸に展開することが前提となっていたこと。ここら辺って、アート界隈あるいは建築界隈では外せない約束事なんだろうかね。僕自身は工学系デザイン界隈と土木趣味界隈でひっそりと生息しているためか、そこらへんにゆるやかな分水嶺があるのかもねえ、なんて感じた。例えば、個人の家をどう使っているかというユーザーの話や、批評性が少ないが大量に生産されているものなどの話は、やはり前提として欲しいと思ったな。もちろん実際に一部には含まれていたし、そればかりだと展覧会の主旨とはズレてしまうだろうけど。

あと、谷口吉郎が設計した国立近代美術館を訪れる際に一番最初に鑑賞すべきポイントは、なにはともあれ3連の住居表示だと思うな。

新建築住宅特集別冊2017年8月号/日本の家1945年以降の建築と暮らし

新建築住宅特集別冊2017年8月号/日本の家1945年以降の建築と暮らし

 

 

花火の高架道

f:id:hachim:20171028144716j:plain

先月の出張時にチラ見した土浦ニューウェイ(不思議な高架道路)を3週間前に再訪した。そのすごさが一見してわかるものではなく、周辺の知識を仕入れた後にそれらを統合しないと事態が受け止められないような物件だったので、なにかのついでではなくしっかり見て感じたかったためだ。

そんな気持ちを若干の興奮とともにツイッターで軽くつぶやいたら、交通系のややこしい問題を徹底的に調べて事実を示すことで有名な革洋同さん(ブログ:骨まで大洋ファンby革命的横浜大洋主義者同盟)が、あっという間に筑波研究学園都市新交通システムを辿るツアーを企画してくださった。そして、たいへん濃厚な交通系の識者たちが参加するこってりセミプライベートツアーが実現したのだ。

しかもその日は、土浦花火大会にぶち当たってしまった。こちらのスケジュールの都合だったのだが、たいへんレアな体験になった。東京で働くことなど考えたことがなく、有名な観光地は安易に立ち入らないなど、人混みを極力避ける人生を歩んできた僕としては、その途方もない集客力に舌を巻いた。すんません、花火大会をなめてました。みんな大好きなんだね。

もちろん僕らも土浦駅から花火大会の会場に向かう臨時バスに乗車するために、長い行列に我慢して並んだ。そして、1日2便しかバスが走行しない高架道路を、ピストン輸送で臨時バスがひっきりなしに通るという光景を、バスの中から目撃することができた。誘導員の方に尋ねると臨時バスの数は70台に上るというが、もしかするとそのバス会社だけでの数かもしれない。その後は必死に花火の席取りに向かうみなさんを横目に、必死につくば行きの路線バスの停留所まで歩いて行った。目的は、つくば花室トンネル

土浦ニューウェイやその周辺を辿るツアーは、随所で興奮しながらもモヤモヤ感がさらに増幅するものだった。つまり、今後につながる収穫がたくさん得られて、大満足なものになった。これらの背景となる情報については、ぜひとも革洋同さんのブログを参照していただきたい。ただし、詳細情報がてんこ盛りの上に「その9」まであるので、読み解くにはそれなりの覚悟も必要だよ。あ、横浜ベイスターズの日本シリーズ出場、おめでとうございます。

骨まで大洋ファン:土浦ニューウェイ(筑波研究学園都市新交通システム)について

竪穴式バス停留所

f:id:hachim:20171024140627j:plain

つくば市にある「吾妻バス停」がすごかった。まるで露天掘りの採石場の底にいるような、コンクリートの垂直壁で囲まれた圧迫感に満ちた半地下空間。たいへん魅力的だし実際にテンションが上がりっぱなしだったのだけど、一般的には不人気なのかもしれない。いずれにしても、なぜここにこのような非日常空間が?という基本的な疑問はいつまでたっても拭うことができない。

このバス停がある「つくば花室トンネル」は「立体街路」として1998年に供用されたようだ。先月の出張時にたまたま出くわした1985年開通の「土浦ニューウェイ」ともども将来的につくばと土浦を結ぶ「新交通システム」を導入するための将来対応だったのだろうけど、時期は10年以上もずれているんだね。この場に立ってみると、さあ新交通システムだ!という前向きな雰囲気は全く感じられなかった。なにしろバス停の時刻表によると、つくば〜土浦、つくば〜水戸のバスがそれぞれ一日一便停車することになっているだけだし。まあいまさら廃止にするわけにもいかないんだろうなあ。