はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

遺跡をつなぐ橋

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イギリス人が大好きなアーサー王の生誕地なんじゃないかと噂されている、コーンウォール地方のティンタジェル。浸食作用で中間部分が崩落したという13世紀のティンタンジェル城の遺跡を再びつなぐように、今年の夏、ローラン・ネイが手がけた新たな橋『ティンタジェル城歩道橋(Tintagel Castle Footbridge)』が架けられた。信じがたいほどに軽快感や透明感が突き抜けている橋だ。アーチ橋に見えるけどアーチ構造ではない。両側からキャンチレバー構造で迫り出し、中央部分はつながっていないという謎構造。

何年も前からネイさんの講演会などでこの橋のことを聞いており、いつか見に行けるといいなあなんて夢想していたのだが、開通のニュースをきっかけにネット上を徘徊しているうちにどうしても観たくなり、エアチケットを夜中にうっかりクリックしてしまった。そして12月24日の便で日本を発ち、クリスマスの25日の朝からレンタカーで移動するという強行スケジュールで、真っ暗になってようやく現地のホテルにたどり着いた。

今朝はものすごい雨と風の音で目覚めた。遅い夜明けとともにホテルの窓からティンタンジェル城跡を含むこの地を眺めてみると、中世騎士伝説や指輪物語やドラゴンクエストなんかが思い浮かぶ。行きの機内で観たばかりのルーク・スカイウォーカーがひっそりと暮らしている島なんじゃないかと疑いたくなる、最果て感が満載の様相だ。

朝食後に雨雲レーダーを睨みながら、わずかな切れ目を狙って現地に赴いたものの、悪天候のため通行不可状態。でも、ものすごい高低差がある環境だけに、外側からの視点場はたっぷりある。やっぱりネイさんの橋は写真に撮りにくいなあなんてブツブツ言いながら、かなりの距離を歩いて大興奮しながら眺め倒した。まだ近寄れてはいないが、この歩道橋の凄みは数時間の間にも感じられた。明日は天候が持ち直す予報なので、ちゃんと入場してディテールまでしっかり体験できるよう、アーサー王にお願いしよう。

廃天井川という器

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滋賀県の草津市に、江戸時代から引き継がれた都市内の天井川の跡地という、極めて特殊な環境に立地している帯状の公園がある。「de愛ひろば」と名付けられた公園は、中央部にいると両側が囲まれたスリバチ状の窪地なんだけど、両端部に行くと街を見下ろすことができる高台だったりする。これが実に不思議な空間体験が得られる。長時間にわたって堪能したけど、何度でもクラクラできたよ。

細長い空間にはスタイリッシュでシャープなテイスト、手作り感溢れるフレンドリーなテイスト、なにも考えていない安っぽいテイストなど、さまざまなデザイン要素がてんこ盛りに詰め込まれている印象だった。しかし、時間帯によって属性が異なる多くの市民が集い、憩い、遊んでいる様子を目の当たりにすると、カオス的な状況も賑わいを生み出す大事な要因になっていることを意識できた。

それってもしかすると、都市の中心にあるのに外界から遮断されている囲繞空間だからこそ実現できることかもしれない。さらに、市民自らが手をかけて、自らが使う空間をつくるという民主的な姿勢も強く感じた。天井川によって長い間分断されていた都市を、現代的な合意形成手法を取り入れた公園によって再定義しているのかね。まあこの手の話は、体験を共有しないと、なかなか伝わらないよなあ。

山中の緊急災害復旧

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津和野川に合流する名賀川。細長い島根県の、山口県との境界をなす山中を流れている。つまり、千葉から行くにはずいぶん手ごわい場所。その風景の第一印象は、しっとりと地域に馴染んでいるなあというものだった。ところがここは、2013年の豪雨によって甚大な被害を被り、迅速に復旧が進められたという。

大小の曲線が複雑に混在するライン、当該地域に見られる手法を引用した石積み、幅や高さの揺らぎが生み出す水流の表情、手の込んだ頭首工の造形、災害を乗り越えて残されたケヤキの存在などなど、細かく見るとずいぶん手が込んでいることが感じられる。災害の緊急対策と地域景観の創出が高度に両立しているって、すごいことなんじゃないかね。