はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

住む橋

世の中には橋梁と一体になった住宅物件ってのがある。中でも、フィレンツェのポンテヴェッキオは最も有名だと思う。

でも、わざわざ海外に行かなくても、日本にも優良物件がある。総武線の秋葉原浅草橋間のコンクリートアーチ橋の区間は、オススメ物件のひとつ。

沿線のビルに囲まれつつ、桁下空間が高度利用されている高架橋は、一見するだけでは構造のフォルムを感じることが難しい。主な桁下利用は、倉庫、パチンコ屋、居酒屋、八百屋、住居らしきもの。たとえ交差道路があっても、写真のように建築限界ギリギリに建物が貼り付き、なんだかよくわからないファサードが形成されている。

この区間が開通したのは昭和7年(1932年)というから、周辺の様子も現在とはだいぶ違っただろう。当時はローマの水道橋のような威風堂々たる構造物として賞賛されたに違いない。それが、戦後のドサクサで複雑な既得権益が生まれたのかどうかは知らないが、すっかり生活に密着した構造物として、少々猥雑な街並みに埋め込まれ、馴染んでいる。

いわゆる「美しい景観」ではないけど、自然発生的なにじみ方が面白い。時とともに変化する様していくは、ある意味、とても日本的だと思う。個人的には、ポンテヴェッキオよりも魅力的な物件だと思う。