はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ドボク・サミット雑感


日曜日は武蔵野美術大学で開講された「ドボク・サミット」を聴講してきた。「恋する水門」の佐藤淳一さんのコーディネートにより、「工場萌え」の石井哲さん、「団地の見究」「ジャンクション」などの大山顕さん、「ダム」「ダム2」の萩原雅紀さん、「東京鉄塔」の長谷川秀記さんが壇上でディスカッションするという、ドボク・エンタテインメントの潮流を束ねる大胆かつ豪華なトークイベントだ。この企画を実現させた佐藤さんとムサビのパワーには感服する。ちなみに、ここで言う「ドボク」とは、「土木構造物のみならず、土木の特徴のひとつである機能性重視という性格を持つ建築物(工場や団地など)まで含めた領域を示すために無理やり定義された表現法である」とされた。無理やりなだけに、少々違和感が残るところがいいね。

第1部は、それぞれの方々により、それぞれの専門分野(?)のプレゼンが行われた。どれもこれも大爆笑。まさに、エンタテインメント。予定通り(?)、この時点で予定終了時刻をオーバーしていた。様々なジャンルを横並びに一覧できたことで、それぞれの方々の共通点や相違点が浮かび上がってきた。共通点は、ドボクが本来持っている価値を再発見することに意義を見出していることや、それを広める伝道師としての自覚があることや、それを楽しみながらやっていることなど。これらのことは、書籍を出版している時点で明らかとも言えるが、モチベーションを直接的に感じられたことはとてもうれしかった。彼らの楽しみの方法や方向は、それぞれ異なっている。たとえば、構造物の外観やスペックに見え隠れするエンジニアのこだわりを見出すことを楽しんだり(萩原さん)、ギャップのある部分やいじらしさを発見してそれを人に面白く伝える行為自体を楽しんだり(大山さん)、機能から必然的に生まれたカタチに美しさを見出すことを楽しんだり(石井さん)、余計な知識に左右されずに対象を擬人化する見立てを楽しんだり(長谷川さん)、景観の表層に現れている変化から意味を読み取ることを楽しんだり(佐藤さん)。ものの見方の多様さを強烈な印象を伴って教えていただいた。視点の転換を感じる瞬間は、快感だね。

第2部は5名によるディスカッション。こちらも興味深い内容が満載だったが、特に面白かったのが「ドボク鑑賞家の果たす役割とは?」というテーマ。個人的なことで恐縮だが、僕は片足をデザインに、片足を土木の世界に突っ込んでいて、いい歳こいていながら立ち位置が定まらずにフラフラしている。なので、このテーマにはすっかり内省させられてしまった。つまり、ドボク側の人間、あるいはドボク側と鑑賞者を結びつける人間としての立場を問われた気分になり、ドキッとした。特に大山さんの攻撃的な発言によって。以前も書いたことだが、ドボク側はプロモーションが下手であることを認めざるを得ない。やってることは立派なのに。だからこそ、外側からの視線による表象行為が必要であることを痛切に感じた。佐藤さんは、外側の人間が多少浮かれてドボクを表象することに戦略的な意味があるということ語っていた。そもそも、この講座にドボク本流の人間が壇上に一人も上がっていないことや、お茶目なエッセンスを随所にちりばめていることからも、その戦略の一端を垣間見ることができる。これはとても素晴らしいことだ。僕は内側の人間でありつつも、そういった戦略にうっすら巻き込まれたいなと思った。表には出たくないけど。

今回の議論で結論めいたことは出なかった。でも、そんなことははじめからわかっている。考えるきっかけを与えてくれただけで、十分な役割を果たしたのだと思う。ドボク・エンタテインメントが黎明期の段階から次のステップに移行するための、ひとつの節目になった一日だった。会場とのやりとりの時間があれば、完璧だったんだけどな。それだけが少し残念。


恋する水門 FLOODGATES

恋する水門 FLOODGATES

工場萌え

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団地の見究

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ジャンクション

ジャンクション

ダム

ダム

ダム2(ダムダム)

ダム2(ダムダム)

東京鉄塔―ALL ALONG THE ELECTRICTOWER

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