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はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

時計じかけの宇宙の旅


今年の3月から7月までの間、パリの「シネマテーク・フランセーズ」にて、スタンリー・キューブリック展が開催されていた。ここは映像作品の保全や上映を行う私立文化施設で、脱構築主義の旗手として有名なフランク・ゲーリーにより「アメリカン・センター」として建てられたものを改装して使っている。フランス人の映画に対する深い想いが伝わってくる施設だよ。
キューブリック展が開催されるという情報は、震災のショックに打ちひしがれてアイントホーフェンのアパートに引きこもっていたとき、たまたまつけていたテレビで知った。その時は外出する意欲が全く沸かずにスルーしかかったのだけど、7月になってからこのことを思い出し、強い義務感に駆られて慌ててパリに行ってきた。
なにしろ、僕には行かなければならない理由がある。小学生の頃に「2001年宇宙の旅」を観て夢見がちになり、中学生の頃に「シャイニング」を観て心底恐怖におののき、高校生の頃に「時計じかけのオレンジ」を観て暴力と倫理を考えざるを得ず、大学生の頃に「フルメタル・ジャケット」を観て人間の狂気に触れ、要するに僕自身の人格形成に深く深く関わる数々の映画をつくった人物のエキシビションなので、行かないわけにはいかないよね。まあ実際に映画館で観た作品は、社会人になってからの「アイズ・ワイド・シャット」と2001年にリバイバル上映された「2001年宇宙の旅」だけなんだけど。
肝心の展示は、各映画のブースが制作された年代順に配置され、映画に登場した小道具が展示されたり、スケッチや絵コンテが掲示されたり、メイキングシーンやら名シーンなどの映像が投影されたり、少々ごちゃごちゃしたせわしない印象の展示だったけど、キューブリックが好きな人にはたまらない内容が盛りだくさん。そうそうこれこれという感じで、忘れかけていた名シーンの数々が蘇ってきて、涙が出そうになった。
印象的だったのは、想像以上にたくさんの来場者がいて、彼らはとても熱心に展示に見入っていたこと。丸一日かけてコンテンツを味わい尽くそうという気概が感じられた。しかも結構若い人が多かったことも驚きだね。
もし日本でもこのキューブリック展が開催されるなら、もう一度すべての映画をじっくり鑑賞し直してから行こうと思う。いや、開催されなくても見直そう。今夜あたりから。