はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

展示物のない展示空間


かつてトリノモーターショーが開かれていたというTorino Esposizioniの内部空間。このドームはPier Luigi Nerviの設計により1949年に建設されたものだ。ネルヴィの屋根が見たくてトリノに来たのだ、どうしてもこの目で見て帰らなければ、という気分でヴァレンチノ公園に向かった。
僕が現地を訪れたときは展示の準備あるいは撤去の作業をしている最中だったらしく、入り口はしっかり閉ざされていた。ところが目ざとく搬入口のところにわずかな隙間を発見し、見事にするりと潜入に成功してしまった。と言っても、すぐさま現場監督らしき人物ににこやかに声をかけて、写真だけ撮らせてくれないかとお願いすると、すぐさま笑顔とともに了解をいただけたわけだが。イタリア人のこのゆるさ、大好きになってきた。
60年以上前のものなのにこれはすごい、屋根はコンクリートのようなテクスチャーだがそれにしては軽い感じがする、明かり取りのバランスがすごく気持ちいい、空調のダクトがオリジナルの軽快感をだいぶ減殺しちゃっているのかも、などとすっかり興奮してしまった。しかも、まったく展示物がない状態で展示のための空間を見ることができた。つまり空間そのものが唯一の展示物になっている状態である。これは非常に幸運なことだったのだろうね。
ちなみに、やはりネルヴィが設計した1961年のイタリア統一百周年の記念館であるPalazzo del Lavoroにも行ったのだが、こちらはまったく使われておらずに荒れ放題になっていて、背の高いフェンスで外周がすべて閉ざされていて近寄ることすらできなかった。残念。