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はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

肥大化した蚊


工業デザインを勉強していた学生の頃、2年次の立体造形の授業だったと思うが「ワイヤー・スカルプチャー」という課題があった。線材である針金を用いて、立体である昆虫を表現せよというものである。この題材として僕は「蚊」を選んだ。そして小さな蚊を捕まえてきてはルーペを用いて何日もじっくり観察した。おそらくひとつのものをそこまで執拗に凝視するという体験は初めてだったのだろう、造形の巧みさやディテールの豊かさやに非常に興奮したことを憶えている。
そして、「かゆさ」を表現することを裏テーマに据えて、人の肌の上で背中を丸めておなかをふくらませているシーンを想定しながら、銅線や真鍮線をポイント的に用いて体長30cmにもなる蚊のオブジェを制作した。楽しみながらつくることができたためだろう、そこそこ良い評価もいただき、大満足だった。
そのことを高校時代の部活の先輩に話したところ、大学生にもなって無邪気に遊んでいるのかと驚かれた。まあそうだよね、はたから冷静に見れば遊んでいるようにしか見えないだろうし、こっちも真剣に遊んでいる気分だし。しかし遊びの中から学ぶことは、小さな子供だけでなく、大学生であっても、あるいは、大人になっても極めて重要なことだと思うな。まあこれは今も遊んでいることのエクスキューズだが。
そんなことをドイツのデッサウ近郊にある露天掘り炭鉱テーマパークの「フェロポリス」でうっかり思い出した。だってこんなすてきな巨大重機があるんだよ。1941年製、体長約70m、「197 ERs 400」という、とてつもなくかっこいいコードネームなんだけど、やっぱり愛称は「モスキート」。「Raupensäulenschwenkbagger auf Raupenfahrwerk」という重機らしいが、なんのことだかさっぱり。ともかく足下の法面を、上から吊らされたバケツを回転させながら、がりがり削り取るものらしい。
これを設計したドイツ人は、図面の前で真剣に遊んでいたに違いない。心から楽しみながら。