はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

しめたん


福岡市の郊外にある鉄筋コンクリート造の竪坑櫓を有する志免炭鉱は有名だよねえ。産業遺産としての位置付けや保存についていろいろとすったもんだがあったようだし、廃墟マニア的にも優良物件らしいし、何しろそのフォルムが強烈に魅力的だし、略して呼ぶと萌えキャラみたいな響きになるし。どことなく似ているミラノのこれよりもはるかに迫力あるもんねえ。
以前から見てみたかったはずなのに、九州サーベイの行程を立てているときに頭からぽっかり抜け落ちていた。それを思い出させてくださったのが建築マップに素敵な記事をたくさん掲載している九州在住のタケさん。本当に助かりました。
そんなわけで現地に行ってきたところ、なにかと日本離れした異空間に興奮しっぱなしだった。うまい具合に放置プレイをさせられている竪坑櫓のたたずまいは、行き届いたおもてなしや細やかな改善や過剰な安全への配慮が真骨頂の日本の観光地では、なかなかお目にかかれない。さらに、竪坑櫓の周辺の環境がすごかった。
なんだこのなんにもない広大な空間は(後から調べたら多目的スペースという位置付けだった)、なんだこのたくさんの子どもたちの無邪気な活動とのコントラストは(後から調べたら「なかよしパーク」というアスレチック広場だった)、なんだこのベルリンの壁のように唐突にフェンスで仕切られた駐車マスは(これは本当にどうかしている←褒め言葉)、なんだこのゴージャスな複合施設とのギャップは(中に入ってみたら「シーメイト」という志免町総合福祉施設で、市民で大賑わいだった)。
つまり、まるで竪坑櫓などそこにはないと言わんばかりの周辺施設の無視っぷりがすごいのだ。ある意味、日常の風景に溶け込んでしまい、無意識の領域に押し込まれている。溶け込むわけがない姿形なのに。僕のような不勉強な異邦人からしてみると、その歪んだ違和感がたまらない魅力になるわけで。もしもこの環境を意図的に作り上げているとしたら、相当レベルの高いことやっているんじゃないか。
この炭鉱の歴史的経緯など詳しい解説はこの記事(建築マップ:志免炭鉱)がいいですよ。