はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

さよならダム


熊本の球磨川に発電用ダムとして1955年(昭和30年)につくられた荒瀬ダムは、戦後の復興期を中心に活躍した。発電方法の多様化に伴う役割の相対的な後退、老朽化に伴う維持管理費の増大、水質汚染など環境に与えてきた負の影響などを理由に、水利権の失効を機に撤去されることとなり、昨年の9月からその工事が始まっている。日本にはこうした本格ダムの撤去という経験がなく、存廃を巡って幾多の政治的すったもんだがあったので、多くの方々が大きな関心を持ってその動向を見守っているプロジェクトだ。
ダムや道路や下水道など、現在の快適で便利な生活を支えているインフラの多くは、とっくに更新時期に突入している。こうしたインフラはつくられる前は切望されるのだけど、ひとたびそれに慣れるとすっかり意識からはずれてしまう。そのため、維持管理や改修や撤去などへの出費に対する抵抗感はとても強く、終いには土木業界が政治家とつるんでまたしてもボロ儲けを企んでいるなんていう都市伝説的現実逃避を妄信する人が続出する。こうした人の多くは、自分が我慢して不自由な生活を受け入れることもできず、都合の悪いことはすべて人のせいにしたがるので、とてもたちが悪い。
個人の集合である社会を永続的に成り立たせるためには、行くも戻るもコストがかかるという当たり前の事実を受け入れてから、老朽インフラのありようや整備の程度について考えて行こうね。その上で技術開発や人材育成などに対しても、心を配っていこうね。