はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

美ダム


「日本一美しいダム」と言われている、大分県竹田市にある白水堰堤。その白いレースのような落水表情には、ため息をつきながらついつい魅入ってしまう。結構な山の中にあり、大分市からも熊本市からも車で2時間以上かかる。なんでこんな人目につきにくい辺鄙な場所なのに、なんでこんな丁寧につくられた美しい構造物があるのだろうかと、うっかり費用対効果的な穿った見方を発動してしまう。すんません。
1938年(昭和13年)に竣工したこのダムは、大分県の農林技手だった小野安夫の設計および施工管理と言われている。もともとここの地質はあまりダムに適しておらず、軟弱な地盤に対していかに水圧のかからない構造物にするかが設計および施工のポイントだったようだ。そうした課題を乗り越えるために様々な試行錯誤を経て、このダムの特徴である右岸側の曲面護岸や左岸側の階段状護岸が生み出されたのだろう。エンジニアリングを駆使したそのカタチは、しっかり美観をまとって昇華されているところがすごい。これぞデザインの神髄だよね。
小野安夫は一介の県役人だったからこそ、腰を据えて計画、設計、施工に取り組むことを通じて、カタチに対する責任も受け持ったのではないだろうか。行き過ぎた分業体制における請負仕事としてのエンジニアリングとはワケが違う、そんなことを白水堰堤から強く感じた。それと、「形態は機能に従う」という言葉をあろうことか免罪符として誤用して、平然とカタチへの配慮を怠る二流のエンジニアたちは、このような事例をどう見るのだろうかね。