はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

技術の重ね方

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スイスのViamala渓谷に架かる吊床版橋のPunt da Suransuns。それぞれの部材が、恐ろしいまでに薄く、細く、単純。構造家のユルグ・コンツェットが手がけた橋梁は、ギョッとするほど極端に研ぎ澄まされたミニマル・デザインであり、その意味を理解して受け止めるまでにいつも時間がかかってしまう。

この歩道橋は、ケーブルのように張り渡された2枚の鉄のプレートの上に、石の床版がみっちり並べられており、そこに手すりの支柱が直接埋め込まれているという、極めてシンプルな構成になっている。しかし、この尋常ではない軽量感は、高度なエンジニアリングによって実現されていることは間違いなさそうだ。

僕のつたない構造的解釈はこうだ。鉄のプレートはコンクリートの橋台を介して地山にがっちりアンカーされている。このため、上からの荷重で引っ張られても動じない。その上に載せられた石材は、強い力であらかじめ圧縮されている。いわゆるプレストレスが導入されている状態。このため、上から荷重が載ってもやはり動じない状態に保たれる。これをギリギリの部材数、形態、サイズ、スケールで魔法のように実現している。

技術を丁寧に積み重ねて新境地に到達するコンツェットの解の求め方は、ロベール・マイヤールやクリスチャン・メンなどから引き継いだスイス構造設計の伝統に根ざしているものなのかなあ。周辺景観との関係や地域の文脈って、どの程度意識しているもんなのかなあ。たいへん気になるね。ちなみに上の写真の上空に見えるアーチ橋は、クリスチャン・メンの手によるGreat Viamala Bridgeという高速道路の橋。これもなかなか見応えがある。

とりあえず、以下にこれまで見てきたコンツェットの歩道橋を並べてみる。材料も構造形式もバラバラで、地域文化を含めた架橋環境を深く考えていることも伺えるのに、統一感があるよねえ。