はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

スナック様式の最高峰

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先日、富岡製糸場を再訪した(参照:世界遺産のお手入れ)。その際に市街地を散策したのだが、これがなかなかしびれる街並みだった。なんというか、かつて多くの人々が行き交っていた頃の雑多な猥雑さを思い起こさせる、絶妙な昭和感が残されていたのだ。

その中でもひときわ目を引くスナックがあった。意味もなく立体的に構成されたファサード、狭い入口のドアへいざなうリズミカルなアールの取り方、微妙にずれた庇の段差、全体をキリリと引き締める垂直ライン、味わい深いバランスで置かれた室外機、主張しすぎない路上園芸、そして、最高にキャッチーな色と名前とロゴタイプなど。あまりにも多様でアクの強い造形言語が用いられているのだが、建物自体の小さなスケール感によって程よく調和し、最高の「スナック様式」として完成されているように感じた。

このような様式は「遊郭建築」や「カフェー建築」などのキーワードで画像検索すると、類例を発見することができる。おそらくこのエリアもそっち系の商売が盛んだったのだろうと想像できる。かつての栄華の中枢が世界遺産に登録された今もなお、裏様式が街の中に埋め込まれていることに感心する。これからも富岡製糸場とセットで継承していただきたい。

建物だけでなく、道路の舗装もなかなか見応えがある。洗い出しコンクリート舗装っぽいのだが、コンクリートカッターによって石畳風の目地を入れているのだ。もちろん周囲が立派な伝統的建造物であれば合わないだろうが、昭和感漂う富岡の街並みにおいては良好な雰囲気が形成されている。おそらく大幅なコストアップにならずに。