はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

秩序の中の自由意志

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ニューデリーで出会った衝撃的な室外機コレクション。グリッド状に整えられたブルータル建築のファサードに、室外機が自由奔放に配置されている。よく見ると窓枠や塗装もオリジナリティに溢れているではないか。その様相は、まるでユーザーの使いこなし方の展示会である。現地で眺めたときはその曼荼羅的な見た目に大興奮したわけだが、帰国して日を追うごとにインドのありようと、自分が抱いているモヤモヤしたイメージを象徴しているのではないかという気持ちになってきた。

ここにあるのは、計画された秩序の中で、ふつふつと沸き立つ自由意志と多様性だ。しかもどこかに狂気のようなものを感じる。これって、ニューデリーの街そのものの構図と一緒じゃないかね。都市計画はやたらとビシッとしているのに、そこで繰り広げられている交通の状況はカオスでしかないわけで。詳しくは知らないが、もしかするとカースト制度由来の分業システムの中で繰り広げられている自由さも、同様の構図なのかもしれない。それはそれとして、最近の自分が魅力を感じている人間が構築した環境ってのは、ここら辺に源泉がある気がしてならない。そこらへんは時間をかけてじっくり取り組みつつ、いずれにしてもインドにはあらためて現実逃避のために行かねばなるまい。

先のインド訪問では予習する時間をほとんど確保できなかったが、かえって新鮮味のある状態で目の様子を衝撃とともに受け入れることができた。しかも、海外旅行につきもののストレスがほとんど無い状態で。なにしろ、ほぼ全ての行程をアテンドしていただき、現地での移動から食事のメニュー選びに至るまで、余計なことを一切考えずに済んだのだ。こんな旅ははじめてだったな。

上の写真のビルを通り過ぎる際、アテンドしてくださった方に「あの室外機はどうですか?車止めてもらいますか?」と言われた。その時は遠慮の気持ちがあったせいか「いや、わざわざそんな、結構ですよ」なんて大人のふりをしてスルーしてしまったのだが、あまりにも印象に強く残ったので、無理を言って引き返していただいた。都市鑑賞には立ち止まり戻る勇気も必要だもんね。僕の気持ちを見事に汲み取ってくださった彼女の気配りは、本当に素晴らしかったな。関係者のみなさまには、感謝してもしきれない。