はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

橋梁景観とは別の話

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波形鋼板ウェブを用いたエクストラドーズド橋である近江大鳥橋を再訪した。まあ前回の2004年時点は建設中だったので、完成後の姿ははじめてだ。まるでエヴァンゲリオンに出てくる使徒のようなエグみのある造形は衰えていないどころか、凄みを増していた。

それは別として、なにやら不思議かつ不可解な印象を抱いた。15年前には橋梁のインパクトだけに目を奪われたが、落ち着いて眺めてみると、谷間の平場にあってしかるべき生活の様子が全く感じられないのだ。さらに近江大鳥橋下方の高架橋はできたての印象もないのに供用していないし、カーナビの地図にもGoogleマップにも載っていない。大きな違和感を抱きつつ検索してみると、すぐにその理由がわかった。

ここは下流に建設予定だった水道用水の水源確保を含む多目的ダムの大戸川ダムによって水没するエリアで、元住民の方々への補償はすっかり完了しているのだという。ところが、2005年に実施された国の公共事業の見直しによって大戸川ダムの建設が凍結されたものの、地元自治体はその決定に反対して付け替え県道の工事は進んだ。その後、国は治水ダムのみとして常時は貯水しない方針が打ち出したが、滋賀県などが建設反対の立場に転じてやっぱり凍結となった。さらに、今年の4月には県がダムによる治水効果を認めて建設再開の可能性を示唆したりと、極めてややこしい状況になっているらしいのだ。いやこの経緯でいいのかね、実際のところ僕の理解も追いついていない。

財政状況や災害対策などの社会環境が大きく変化する中で、地域住民をはじめとする関係者の方々の考え方も大きく揺れ動いているのかもしれない。そして、この風景があるべき姿に落ち着くまでには、さらなる時間が必要なのかもしれない。橋を見に行ったはずなのに、それどころではなくなってしまった。