はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

寄り添う

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リサイクルボックスの観察は、そこそこ頻繁に行っている。しかし、この二人の愛おしさを超えるものにはなかなか出会わない。

なぜか傾斜がついている場所に置かれて斜めになったリサイクルボックスが、きっちり水平を出してしっかりと佇む自販機に、そっと身を委ねている。投入口の凹みは、ついさっき泣いたばかりの目元ようだ。透明なビニール袋に反射する光は、少し緩んだ口元に違いない。

何があったのかはわからないが、リサイクルボックスが自販機を全面的に信頼していることは見て取れる。その二人の関係を、これからもずっと維持してほしい。

里山ファンタジー

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「多治見市モザイクタイルミュージアム」を設計した藤森照信氏による「ラコリーナ近江八幡」を訪れたのは、およそ1年半前。この施設をざっくり言うと、お菓子屋さんである「たねやグループ」による、お菓子と里山のイメージが織りなす世界観を堪能できるテーマパークだ。ここもまた、ワクワクとニヤニヤが止まらない場所だった。

語弊があるかもしれないが、自然の脅威や泥臭さなどの負の側面を平然と乗り越えて、宮崎アニメ的ファンタジーのテイストで上手にまとめ上げられているように感じた。ゆるいながらも骨太な独特の質感と、あざといまでに映え感に徹した演出の狭間で、大いに動揺した記憶がある。ここに来ている大勢の人々と、これまた極めて魅力的な旧市街との関係は、どの程度あるのかないのか、たいへん気になったな。

特に印象に残ったのは、エントランスのシークエンス景観。メインの敷地に入ったとたんに正面に見える建物は、その背景の山並みのスカイラインを切ることなく、ぴったりはまり込んでいる。この時点で一気に日常から分離される。歩を進めるにつれて建物の異様な存在が強くなり、スーッと夢の国に引き込まれていく。屋上緑化のメンテナンスはどうなのかという疑念など、あっという間に吹っ飛んでしまったな。

そうそう。この日は長年使っていたカメラが突然壊れてしまったんだよな。妻のカメラを借りて事なきを得たが、先ほど写真を眺め返していたときにザワザワと感じていた違和感は、ラコリーナ由来ではなく、カメラ由来だったんだな。

 

山の断面

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岐阜県の多治見市は古くからの陶磁器の産地である。特に中心市街地から南下した笠原町というエリアは、モザイクタイルが有名である。この地の出身の山内逸三氏が開発した磁器質タイルの新製法を地元企業に広め、戦後の急速な住宅開発の波に乗って圧倒的な国内シェアを得た。という知識を、多治見市モザイクタイルミュージアムの展示で得た。

このミュージアム、見ての通り、藤森照信氏が設計したものだ。外部空間も内部空間もディテールも仕上げも、どこを見てもワクワクとニヤニヤが止まらない。主題であるタイルの使用は展示空間以外は最小限に留められ、土の表現ががっつりなされている。スリバチ状の広場を含む正面は、原材料を取るために掘削された山を模しているという。

僕のような来訪者はよろこんで映える写真を撮りまくっているわけだが、やや寂しげな街の風景とのギャップも印象的だった。そんな街中をうろうろしながら、数名の地元の方にお話を伺うことができた。「ヘンな建物に最初はギョッとしたけど、すぐに慣れた」「昔は仕事が忙しかったけど、ずいぶん前に廃業した」「ミュージアムは毎日見ているけど、中に入ったことはない」「観光客はたくさん来るけど、地元にはなんにも関係ない」といったお話を伺っているうちに、1時間に1本程度しかない多治見駅行きのバスに乗り遅れそうになった。あぶないあぶない。