はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

暗渠に架かる橋

このたび「暗橋(あんきょう)」という概念が開発された。地下に追いやられた川や水路、いわゆる「暗渠」に架かる、あるいは架かっていた橋のことだ。親柱や高欄の一部が残されていケースもあれば、橋の名前が交差点名などに残されているケースもある。この視座を備えておくと、街を歩くときに時間の層が明快に加わり、かなり面白い見方を提示してくれそうだ。これまで僕も持っていなかった概念なので、今後は積極的に取り入れていきたいと思う。

この言葉を提唱しているのは、暗渠マニアックスの高山氏と吉村氏だ。本日発売の『「暗橋」で楽しむ東京さんぽ 暗渠に架かる橋から見る街』の著者である。なんと先日、この本の発売記念イベントにゲストとして参加させていただいた。橋への愛情は持っているものの、暗橋については初心者であるというスタンスで登壇したわけだが、お客様的にどうだったのだろうか。僕はとても楽しかったんだけど。

この本、圧倒的なボリュームのフィールドワーク、インタビュー調査、文献調査などを通じて、まち歩きのヒントを提示してくれるだけでなく、多方向からの鋭い分析を行って論じている。それは、「橋」からの工学的アプローチではなく、地理と歴史をベースとした「暗渠」からの社会学的アプローチが貫かれている。しかも、高山氏と吉村氏のスタンスの違いが上手にブレンドされているため、読み進めると多面的な視座を提示してくれている。多くの方に手に取っていただきたい本である。

上の写真はわが家の近所にある暗渠の上に架かっていた名も無き橋。改良されたり壊されるでもなく、そのままの姿で利用されている。この本で言うところの「野良暗橋」にカテゴライズされる物件だと思う。

ついでに「暗橋」に関わる過去記事を掘り起こしてみた。やはり僕は橋目線からしか見ていないようだ。もっと精進して、いろんな見方を獲得しなければね。

 

新幹線の代替策

渦潮で有名な鳴門海峡を跨いで淡路島と四国を結ぶ大鳴門橋は、1985(昭和60)年に開通した長大吊橋だ。当初は本州と四国を結ぶ新幹線が計画されていたことから、大鳴門橋の補剛桁の中央部は新幹線が通れる設計になっているという。その後いろいろとあったのであろう、新幹線計画は頓挫し、本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋は道路のみとなり、開通にはほど遠い状況になった。現在は徳島側の一部区間に「渦の道」という遊歩道が整備されており、渦潮を直上から眺める観光スポットなっている。

将来的に鉄道が通る可能性はゼロではないが、現在、別の形でこの空間を活用する計画が進んでいる。来年度にも自転車道の整備が事業化し、早ければ2027年度に完成するというのだ。尾道と今治を結ぶしまなみ海道はサイクリングロードとしても成立しているため、明石海峡に限って船を利用すれば、瀬戸内海を自転車でぐるりと回ることができるようになるということだ。アウトドア系の話が全くわからない僕にとって、自転車道の整備がどの程度インパクトがあるのかは少々ピンとこないが、今ある橋を複合的に利活用することは夢のある話だと思うな。成功を祈りたい。

ホンモノになりたい

芸術や技術などの創造的行為において、自然の成り立ちや他者の技能を体験的に模倣することは極めて重要な意義がある。模倣を繰り返すことで良質の学びを得るのだ。そう考えると、丸太風の外観をまとったコンクリート製水飲み場も、模倣によって新たな価値を獲得する過程にあると捉えられないだろうか。ホンモノとニセモノの境界はどこにあるのか、なぜニセモノは悪とされるのか、そもそもホンモノとはなにかなど、深淵で本質的な命題を突きつけられる。