デン・ハーグにある日本大使館への用事を済ませたあと、トラムに乗ってスヘーフェニンゲンというリゾートエリアに移動した。オランダに来てはじめて観光っぽい行動をとった記念すべき第1号は、北海から突き出る不穏なタワーだ。大使館へ行く前日、ネットでハーグのことを調べていたらたまたまこのタワーの写真がヒットして、がっちり心をつかまれてしまったのだ。
ときめくこの気持ちを抑えながら、トラムを降りて静かに海岸に近づいていく。ショッピングモールを抜けて遠くに目をやると、桟橋の向こうにタワーが見える。シャフトを取り巻く大蛇のような階段が、えもいわれぬフリーダムさで取り巻いているではないか。あちこちで耳にするダッチデザインとはこのことだったのか。見る側も自然と興奮が解き放たれて、小走りでタワーに近づいてゆく。
この無駄に力強いのだが見るものを不安にさせるフォルムのタワーは、計画設計の意図とは関係のない要因が同時多発的に発生して成立した偶然の産物だろう。そういう骨太ながらもぬかったフリーダムなデザインがオランダにあるということは、この国は自由の及ぶ領域が広いということで喜んでよかろう。この領域は「100均フリーダム」と通ずるところがある。片や手に乗る大きさのもの、片や人がそれに乗るものというスケールの違いこそあれ、最小コストでつくらねばならないという命題は同じだし、解決策は無限にあるものを自由に組み合わせるということも共通している。こうしたことからも、欧州の構造物デザインを理解するためには、「1ユーロ均フリーダム」を真剣に調べる必要がある。誰がやるの?僕??
この周辺のエリアもかなり奔放にキッチュが入っている。異彩を放っているホテルやカジノなどが連なっていて、庶民の気分を最高潮にさせる仕掛けが満載。ちょっと前の観光地特有の親しみやすさ、垢抜けなさ、ぽっかりとした隙が混沌としていて、もう少しどうにかなると場末感が一気にはじけそうなのだが、今一歩というところで踏みとどまっている。
いや、そんなことはいい。
バンジータワーははじめからバンジージャンプをする目的で生まれたのか。展望施設として生まれたのちに、あとからやってきた乱暴者に蹂躙されたのではないのか。いやいやそうではない。聞きたいのはこれからもバンジータワーを続けていく覚悟があるのかと言うことだ。ただのアトラクションというソフトの枠を超え、オランダのキッチュな面を象徴する構造物にまで発展ていることを自覚してやるのか。
おっと、少し興奮していたようだ。うっかりこれを海外渡航の初っぱなに選んでしまうあたり、僕はやっぱり好きなんだろうな、こういうの。その後は反省をして、ハーグの中心地まで戻り、散歩をしながら歴史的建造物をチラ見してきた。そこでようやく自分はヨーロッパにいるんだという実感が得られた。順番が逆な気もするので、気が向いたら自分の行動に修正をかけていくよ。
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