はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

構造設計家


シュトゥットガルトにある、道路で分断された2つの公園をつなぐ歩道橋。橋梁ではなかなかお目にかかれない「ケーブルネット構造」という形式だ。ネットにはブドウのつるが絡まり、緑に覆われる予定なんだそうな。僕が見たのはだいぶ前のことなので、今はどうなっているのかは知らない。

設計はドイツ構造設計界の重鎮であるJ.シュライヒ。やりたいことをやっちゃったという、無邪気な気分が伝わってくる。

この立地環境で橋を設計するとき、ふつうは「2つの公園を結びつける」ように考えるだろう。しかし、シュライヒは「2つの公園を一体化する」ことを目指して設計のコンセプトを立てた。つまり、橋であることを意識させない、緑に包まれたステキな園路の一部にしようとしたのである。と思う。

だから、S字カーブを描く線形にする必要があったし、橋の上にも緑が必要になったし、透過性が高く存在感が低い構造物にする必要があった。さらに、シュライヒの基本思想のひとつである「薄い床版」を実現するために、できるだけ多くの点で床版を支える必要があった。と思う。

「ハンモックみたいな橋にすれば、すべて解決できるんじゃない?」と言ったかどうかは知らないけど、技術と経験に裏打ちされた斬新なアイデアを適用した。コンピューターの進歩がその実現を後押しした。そして、周囲を巻き込んで事業を進めることができる人間力と実行力によって、責任を持ちながら、やりたいようにやったのだろうね。

同市内には、シュライヒが設計した橋がそこらじゅうに散らばっている。どの橋を見ても、何らかの形で構造に対する新たな挑戦を行った形跡がある。どの橋も、美しいかどうかは別として、感動を与えてくれる。ぜひ、氏を敬意の念を込めて「構造設計家」と呼ばさせていただきたい。