はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ダッチ土木の伝統


せっかくオランダに来たからには、いかにもオランダらしい風景をしっかり見ておかねばなるまい。そこで先週末、ユネスコの世界遺産にも登録されているキンデルダイクの風車ネットワークを見に行ってきた。「世界は神がつくったが、オランダはオランダ人がつくった」という言葉が知られているけど、その言葉は伊達ではないことを実感した。
そもそもオランダを示すネーデルランドという言葉は、「低い土地」という意味。オランダには山らしい山など全くなく、極めてフラットな低湿地が延々と続いている。しかも、海抜より低い土地が国土の4分の1もの面積を占めているらしい(どの説が本当なのか未確認)。13世紀頃からここに住み着いた人々が低湿地の水を抜き、干拓することで国土を少しずつ拡張してきた。その歴史の中で様々な試みがなされ、彼らは水をコントロールする術をしだいに身につけていった。
何ものにも遮られないオランダの国土には、いつも強い風が吹いている。この地球規模の無尽蔵のエネルギーを利用して新たな土地をつくるということは、地域の条件に応じた極めて合理的な営みだよね。そして花開いた土木技術の一端を垣間見られるのが、このキンデルダイクの牧歌的な風景。18世紀半ばにつくられたシステムは、何機もの風車が連携して低地の水を高い位置まで必死に揚げて排水し、周りを固めた堤防で水が進入するのを防ぐわけだ。この地味で人工的な防衛システムからは、水と土地に対するオランダ人の執念を感じるね。それどころか、オランダ人が持っているものごとを合理的に解いていく思考や社会全体で協同していく姿勢は、こうした国土形成の歴史と密接に関係しているんだろうなあ。