はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

サイボーグ滝


こんど九州に行くんだけど面白いところ知らない?とフェイスブックなどで問いかけたところ、友人のメカパンダ氏から「補強工事で雪舟の描いた滝を再現したダムが大分にあるよ」というなんとも謎めいた情報がもたらされた。なんだろう、北海道の中札内にあるピョウタンの滝みたいなものなのかな。よくわからないが、そそられる誘い文句である。事前に調べる時間を確保することができなかったのだけど、とりあえず実物を見ればある程度はわかるだろうと思い、「沈堕ダム」および「沈堕の滝」を訪れた。
ところが、実物を目の前にしても、やっぱりよくわからない。想像を超える幅と高さのダイナミックな滝は天然物なのかな、でも直上は明らかに人工のダム堤体だよな、ともかく滝と一体のものじゃあないよな、うかうかしていると堤体はもうすぐ浸食されちゃうんじゃないか、というか堤体の基礎はどうなってるのかね、だからどっちが先なのさ、案内板にはいかにも由緒がある滝だと書いてあるけどホンモノなのかね、そもそもホンモノとニセモノってどこが境界なんだろう、などと疑問がぐるぐるループしてしまい、結局モヤモヤしたまま現地を後にした。
自分の不勉強を晒すことになるが、帰宅後にこれらの記事(国指定文化財等データベース:沈堕の滝(メンテナンス中)、ダム便覧:沈堕ダム財界九州:2006年10月号「水墨画、漢詩、民話の舞台〜沈堕の滝」西日本新聞:九州水物語「沈堕の滝 雪舟の描いた景勝復活」)をはじめとするネット上の情報を概観して、ようやく納得できた。つまり、もともと名瀑「沈堕の滝」があった、ただしその滝は浸食によりじわじわ後退していた → 明治42年(1909年)に鉄道用水力発電のために「沈堕ダム」をつくった → 大正12年(1923年)に堤体を嵩上げしたことで水量が減り、滝は極端にショボくなった → 昭和60年代に地域おこしを目的に沈堕の滝を復活させる運動が始まった → 平成11年(1999年)に管理者である九州電力が水利権の更新を機に放水量を増やすとともに、ロックボルトによる滝壁面の補強や根固工による洗掘防止を行い、さらに自然石や擬石を配して名瀑としての落水を再現した → 現在に至る、ということのようなのだ。
現状を守るために自然環境をサイボーグ化するってことは、土木技術の大きな使命ではある。あのナイアガラの滝だって浸食による後退を食い止めるために人の手が加えられているらしいしね。その程度がどんなもんかということと、どこまで自然を再現あるいは模倣できるかということがポイントになるのだろうかね。
この滝とダムを取り巻く状況は一応理解はできたのだけど、モヤモヤは収まらない。それどころか、拡大する一方だ。困ったな。


【追記】
計画の全容がわかる技術資料があったので、忘れないうちにリンクを貼っておこう。
新エネルギー財団:景観復元に配慮した設備保全(pdf)

【追記2】
メカパンダ氏から、沈堕ダムの歴史もわかる動画を紹介してもらった。映像がきれいだし、すごくわかりやすい。最初にこれを見ておくべきだったなあ。
九州電力:古今紀行|沈堕の滝