「地域を代表する風景」ってのは、郷土史のフィルターを経て古典化し、一般的な価値を獲得したものだろう。そういうものでないと、観光パンフレットに掲載しにくいだろうし。それ自体はそれほど疑ってないのだけど、個人的な地域のイメージとなると話は少々違ってくる。
現在、富山県氷見市に来ている。今日で滞在三日目であり、ここ二日間はずっと市内を徘徊し続けている。氷見にはうどんと魚介類以外はイメージを持っていなかったが、歩き回っているうちに少しずつ明確になってきた。その個人的なイメージを代表するのが、初日の夕方に見た上の風景だ。
正面には富山湾がチラリと見え、そこに視線を誘導するビスタ景観が形成されている。しかも、わずかなカーブによって徐々に海が見えてくるという、感動的なシークエンス。それをがっちり補強しているのが、ファサードのノイズがほとんどない、シルエットだけの状態の両側の民家。おそらく道路の拡幅によって露出したのであろう「ダンメン」だ。(参照:キョート*ダンメンロシュツ)
いわゆる「歴史的建造物」に相当する家屋もそれなりの数が残されている。なので、それらが構成する「古い街並み」に価値があると思いがちだ。しかし、比較的新しい外装をまとった建物からも、氷見らしさをビシビシと感じる。どうやら「短冊状の地割り」に起因するあれこれが印象の決定要因になっていることは間違いなさそうだ。つまり、狭い平入りの間口とともに、奥行きのある民家の空間構成を白日の下にさらしている「ダンメン」が、極めて重要なアイコンとなっているんだと思う。
戦後の「都市開発」の波に乗らずに(乗り遅れて)、ゆったりしたペースで更新している街には、その履歴がじわじわと積み重ねられていくのだろう。その証拠によって構成され、しかも重要な地形要素が入り込んでいる景観は、その街らしさを代表していると捉えても差し支えないよね。少なくとも個人的には。