はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

自然を引用した楕円

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スイスアルプスの渓流沿いを歩くトレッキングコース「Trutg dil Flem」には、ユルグ・コンツェットが設計した7つの歩道橋が架けられている。それらの橋は美しい渓流を様々な角度から楽しみ尽くすための重要な視点場として設えられており、それらの橋自体がコース全体のシークエンスにおけるアクセントとして機能している。

そのシリーズの最上流に位置しているのが「Oberste Brücke」という、楕円形のコンクリート板にびっくりするほど繊細な高欄が取り付けられた橋。きっちりした幾何学的な形状で構成された姿は、渓流の眺めとのコントラストが強烈だった。

原案のスケッチでは、明らかに自然の石版を模した造形だった。そのため、コンツェットご本人に「なぜ周辺の自然環境に対比させるような人工的な造形に変更したのか?」と尋ねてみたところ、「いやいや、あれはポットホール(甌穴:水流によって小石が回転することでできた穴)を引用したんだよ」と即答していただいた。たしかにあの沢にはたくさんのポットホールがあったし、Oberste Brückeの架橋位置は特に多く見られた。なあるほど、たしかに自然って幾何学的な図形がちりばめられているもんなあ、あの橋の眺めが周辺環境と微妙なバランスを保っているのはそのためなのかと、すっかり感激してしまった。

彼の橋はこれまでもたくさん見てきたのだけど、極めてミニマルな形態に帰結していることが多いように感じる。それらは、真摯な姿勢で架橋環境を読み切った結果として現出しているわけだ。そのことが確認できたことは、インタビューの大きな成果だったなあ。