秩父の道の駅に立ち寄った際、視界の端に気になるものが飛び込んできたので、フラフラと近づいてみた。それは「純粋橋」と言っても差し支えないトマソン物件だった。もちろん、一見してかつて鉄道を跨いでいたのだろうことは推測できたのだが、見れば見るほどときめいてくるのだ。
そもそも橋というものは、障害となるなにかを跨ぐものであるが、この橋は何も跨いでいない。純粋に路面を宙に浮かせているだけである。しかも、その側面にある階段は、その上に作られた斜路によって完全に無用の長物と化している。そればかりか、自転車や歩行者はなにも障害がない地面の上を悠々と通ることができるため、無駄な位置エネルギーの浪費を要求するこの斜路を通る者はまずいないだろう。
実際にこの橋の上の歩道からは、秩父駅に接続していたのであろう二股に分かれた線路敷跡が残されていた。武甲山から生み出される石灰石を使ったセメント関連の工場と結ばれて、なにかが運ばれていたのだろう。いずれちゃんと再訪して、いろんな痕跡を確認したいところだね。
なお、ここで解説するまでもないけれど、『超芸術トマソン』とは赤瀬川原平らが見出した鑑賞者がその対象の価値を決めるという姿勢を示した概念である。その中で、本来の役割を失って無用の長物と化した不動産が「トマソン」と呼ばれている。その語源は、鳴り物入りで読売ジャイアンツに入団したけど三振の山を築き上げたという伝説の助っ人外国人「ゲーリー・トマソン」に由来している。