はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

過剰水門

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1983(昭和58)年に完成した六角川河口堰を見に行くにあたり、台風時の高潮被害から地域を守るための「防潮水門」であることは心得ていた。ところが現地で実物を見てみると、想像をはるかに超えた過剰な雰囲気が施設全体に漂っていてのけぞった。堰幅226.2m、ゲート高12.0m、門数9門という規模もすごいが、門扉の構造が上下流面ともに仰々しく、機械室もでかい。そこに立ち並ぶ螺旋階段も鬼気迫るものだ。このワールドクラスのかっこよさには終始大興奮。ちなみにこのことは、(かつて)水門写真家の佐藤淳一さんも同様の印象を持たれている。

その様子から有明海の干満差は侮れないってことは感じ取れたものの、なんとなく腑に落ちなかった。そこで少し突っ込んで調べてみると、もともとは防潮機能に加えて農業用水の確保も目的とされていたことがわかった。つまり、進行方向が明確ではないほど河床勾配が少ない六角川流域の根本的な水不足を解消するために、河口堰を閉じることで河口部を淡水化し、水資源を確保しようとしていたのだ。ところが有明海沿岸のノリ養殖や漁業への影響が問題視されて論争が起こり、高潮時の防災対策以外にゲートが閉められることはついぞなかったようだ。

そんな時代の価値観変化の歴史が背景にあることを知ると、ポテンシャルが十分発揮できないまま佇むこの水門がより愛おしく感じられてくる。またあらためて観に行かなきゃね。

【参考】
Das Otterhaus 【カワウソ舎】|六角川河口堰
環境問題シンポジュウム講演論文集|六角川流域における水秩序と水環境管理