最近、あちこちで長崎の「出島表門橋」が話題になっている。日本の橋梁界で最も権威がある土木学会の「田中賞」も受賞しており、以前から見に行かねばと思っていた歩道橋だ。国指定史跡である出島の復元に関する事業の一環で、ネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一氏を中心とする設計チームが手がけている。
ご本人の話を含むいろんな情報を見聞きしていると、全体から細部に至るまで極めて高いクオリティの構造物が日本でも実現できたこと、設計から施工や運用に至るまで一貫したオリジナリティが実現して保たれていること、これからの地域のコアを担っていく可能性がとても高いことなどが、評価ポイントとして浮かび上がってきた。
もしかすると自他ともに褒めすぎなんじゃないかなあと、穿った見方を心がけて鼻息荒く現地に乗り込んだわけだが、あっさり頭を垂れて橋がもたらす風景に見入ってしまった。これはちょっとヤバい橋だぞ、と。日本の橋梁整備を取り巻く停滞した環境に、大きな一石を投じていることを強く確信した。未見の方は、長崎旅行の予定に入れることをオススメするよ。出島対岸の公園にはミッフィーがたくさん隠れているので、捜索も含めてちゃんと時間を確保しようね。
事前に渡邉さんから聞いていたけど、現地であらためてびっくりしたことは、ヌルッとした風景への溶け込み方だ。目の前にあるはずなのに、見えない。モーメント図を再現した中路桁の構造フォルム、ダークグレーの塗装色、強い影を落とす水平方向のスティフナー、無数の穴が空けられたウェブ、そこに一体化した櫛状の高欄など、さまざまな要因がすべて風景に溶ける方向に作用している。
上の写真を見返してみても、奥にある現役最古の鉄製道路橋「出島橋」の繊細なトラスのほうが確実に存在感があるもんなあ。以前から何度も申し上げているとおり、ネイの橋は写真に撮りにくいってことが、ここでも示された格好だね。