はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

後から履いた網タイツ

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伊豆の国市にある韮沢反射炉に行ってきた。沼津港にほど近い山中に、江戸幕府によって1857(安政4)年につくられた、鋳物鉄を溶かして大砲などを生産するための極秘軍事施設だ。7月の終わりにたまたま萩反射炉を見てきたので、1ヶ月程度の間に国内に現存する反射炉をコンプリートしたことになる。2つしかないけど。ちなみに、どちらも世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成要素に指定されている。試行錯誤しながら急速な近代化を進めた象徴としての価値が認められているってわけだね。

韮沢反射炉の外観は強烈なインパクトがある。江戸時代の軍事施設なのに、イッセイミヤケのバッグブランド「バオバオ」か、セクシー網タイツかというほど印象的。しかしこれって実は、耐火煉瓦でつくられた本体の保存のために大規模な耐震補強が行われた結果の姿なのだ。トラスの補強材が組まれたのは1957(昭和32)年、現在のフッ素樹脂塗装が施された鉄骨は1988(昭和63)年に差し替えられたもののようだ。オリジナルに近い姿や1908(明治41)年の補強時の姿は、韮山反射炉ガイダンスセンターの展示物などで確認することができるので、対比して観察してみるとなお楽しいよ。

僕らが抱く韮山反射炉のイメージは、すっかりトラスの耐震補強込みになっていると思う。実際にその姿を眺めていると、保存修復という概念は一体なんなんだろうと、ムズムズしながら考える場面に直面する。建築物などの作家の手による「作品」とは異なり、使われてナンボの土木構造物や産業施設については、オリジナルの姿でなければならないってことでもなさそうだね。もう少しやりようがありそうな気もするが、なにを乗り越えてなにを伝えていくのか、そのコンセプトを共有することこそが重要なんだろう。伊豆の国市韮山反射炉PRキャラクター「てつざえもん」なんて、完全に時代を超越しているし。