はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

自然現象と人間活動の交錯点

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東日本大震災の発災翌日である2011年3月12日の朝、長野県北部地震によって写真右上の斜面が崩壊し、大量の土砂が積雪を巻き込みながら、写真左側にある国道353号を飲み込んだ。その緊急対策としてつくられたのが、鋼製セル工法による主堤体を有するこのトヤ沢砂防堰堤だ。

不安定土塊を抱える谷を早急に手当てしなければならない状況の中、厚い軟弱層に対応しながら、工期を短縮でき、現地発生材を有効利用できる工法が選定されたという。円形に並ぶよう地中深くに打ち込まれた表面処理をしていない鋼矢板はに、自然なさびが生じている。

この巨大で生々しい姿の砂防堰堤は、あたかも強靱なメッセージを発している造形物のよう。この地域で20年も継続されている国際アートプロジェクト「大地の芸術祭」の関係者の目に止まることは必然だったろうね。2015年および2018年の「越後妻有トリエンナーレ」において、土石流の範囲を黄色いポールによって可視化する『土石流のモニュメント』として「作品化」された。

その制作過程には、ポールの塗装や設置のほか、周囲の草刈りや駐車場の誘導を含めて、当該地区の住民の方々が積極的に参加したという。そのプロセスを経て、防災施設である砂防堰堤が地域のシンボルとなった。地元の方々が防災施設を表現の場として能動的につくり上げる雰囲気が醸成されたことは、「人間は自然に内包される」ことを掲げるアートプロジェクトが地域に根ざしていることの、なによりの証だろうね。

2014年に偶然通りがかったときに撮った写真とほぼ同じ場所から眺めてみた。崩壊した山腹は、一部の急傾斜地を除いて植生が回復してきたように見える。土砂で埋まった農地も元通りになっているようだし。そうした土木的スケールでの時間変化を感じてみると、より作品的だよねえ。