はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

エンジニアリングとデザイン

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エンジニアリングとデザインの世界をざっくり分けて見た場合、どちらにも中途半端に足を突っ込んだことがある立場としては、基本理念というかアプローチが違うと感じることが多々ある。それはその人が受けてきた基礎教育の方向性に起因しているのではないかと、ずいぶん前から思っている。異論はさまざまあると思うけど、わかりやすく二項対立構図で比較してみる。

エンジニアリング教育の基本方針は、「いかにつくるか」という課題解決能力の開発を目指して、対象領域の知識を深め、論理を積み重ねて演繹的に正解を推論する「順問題」のアプローチが重視されているとする。それに対して、デザイン教育の基本方針は「なにをつくるか」という問題発見能力の開発を目指して、特定の領域の知識の深さを求めるよりも、広い領域の知識同士を接続する思考やプロセスを重視し、ある環境や状況における最適解を帰納的に推論する「逆問題」のアプローチが重視されているように思う。いや、僕自身がそうしたいだけかもしれないが。

そうすると、実際のものづくりの現場において、絶対的な正解を追求する立場と、相対的な最適解を追求する立場で背反する事態が生じることも、とても自然に感じられる。なにしろ、どちらも信じているものに対して純粋な姿勢で望んでいるのだから。だからこそ、両者の間にある深い谷を乗り越えて、両立という境地に到達したものに宿る価値は、やはり素晴らしいよね。

上の写真は、イタリアのヴァーリ・ソット(Vagli Sotto)という村に架かるリッカルド・モランディ(Riccardo Morandi)が設計したダム湖を跨ぐ1953年につくられた歩道橋。極めて高い次元でエンジニアリングとデザインが融合していると感じる。構造も、施工も、機能も、造形も、どんな語り口からも至高の存在になり得る橋だと思うな。興味がある方は、以下に示す増渕さんのブログ記事を参照されたし。

span35m.blogspot.com

ちなみにこれは、僕が橋のデザインを学び実践していた時期に考えていた「死ぬまでに体験しておきたい個人的世界三大名橋」のひとつ。他のふたつは、スイスのサルギナトーベル橋、スペインのアリオスの水路橋であり、一昨年ついにコンプリートした。どれもこれも、エンジニアリングとデザインが極めて高い次元で融合したものだね。