はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

様式の理由

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1852年につくられたロンドンのキングス・クロス駅。しばらく前までこの周辺は治安が悪いエリアだったらしいが、現在は再開発が進んでオシャレな人気スポットになっている。隣接するネオゴシック様式のセント・パンクラス駅に比べるとやや地味に感じるものの、歴史の重みを感じる堂々たるファサードだ。そんな話を、少し前に行われた土木学会のトークイベントで話題に出した。すると、一緒に登壇した昭和女子大の田村圭介さんから面白いご指摘を伺うことができた。

この駅の正面は、中央の時計台をはさんで2つの大きなアーチがあり、その下部に連続するアーチが連担するファサードになっている。大きな駅舎でよく用いられるルネッサンス様式のような佇まいだ。このスタイルは駅舎と親和性が高いようなイメージがある。それもそのはず、駅の本体部分の上空に架けられた二連のトレインシェッドの断面が正面に現れているというのだ。言われてみれば機能が上手に調和している納得の理由。通過式ではなく頭端式の駅舎ならではの意匠なんだね。

このように鉄道駅舎のファサードにはアーチのフォルムが必然的に現れ、それがルネッサンス様式との結びつきを強めて、鉄道駅らしさみたいなことに結びついているのだろうね。欧州の主要駅がつくられた時代では、ファサードが伝統的な様式を引用しながらゴージャスに飾られてきたことは間違いない。なので今後は、様式と空間構造の関係にも着目して観察したいね。