はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

インテグラル・ブリッジ

たしか1999年の、僕が30歳になる直前のこと。当時会社勤めだった僕は、主に橋のデザインを調査する視察団に混ぜていただき、大学の先生や実務家などとともに、コペンハーゲン、シュツットガルト、パリの3都市を1週間かけて巡るという体験に恵まれたことがある。その時の体験はとても強烈で、その後のものの見方に大きな影響を及ぼしたように感じている。

その旅の中で、あこがれのヨルグ・シュライヒ教授のレクチャーをシュツットガルト大学にて受けて、その後に竣工して間もないネーゼンバッハタール橋を研究室のメンバーにご案内いただけた。シュライヒ教授が「インテグラル・ブリッジ」と称していたこの橋は、複合する課題を橋により同時に解くという事例だった。それを目の当たりにして、橋のデザインの(当時の)現在地を体感できた気がした。

この橋は、1994年の設計コンペによってシュライヒチームが勝利し、1999年に完成したもの。両岸の丘陵に住宅地が広がる渓谷に架かっており、車道の両端はトンネルになっている。そのトンネルを結び、両岸の住宅地を歩道で結び、騒音対策を施し、谷の透過性を維持するという課題を、ユニークな姿で解いている。トンネル断面に近いフォルムの丸鋼管を連続させ、整流板を兼ねたステンレスの防音壁を設置し、上部に歩道を設けている。青で塗られたトラス桁がそのチューブを支え、驚くほど華奢な橋脚が変形を吸収する構造とすることで、騒音の要因になるジョイントを省略している。

それほどエレガントな外見ではないが、まさに統合された解だ。そんなわけで自分にとって重要な橋のひとつとなり、もちろん11年前にも再訪していたのだが、なぜかブログには残していなかった。せっかくなので、23年前にフィルムカメラで撮った写真をアップしておこう。