はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

セーヌ川に架ける橋

またまた古いフィルム写真から。1999年にパリを訪れた際には、供用を目前に控えて静的載荷試験中だったレオポール・セダール・サンゴール橋(当時の名称はソルフェリーノ橋)を訪問した。それは、設計者のマルク・ミムラム氏に現場で解説していただくという、スペシャルな体験だった。

この橋は、1992年のコンペによって選定された、セーヌ川に架かるパリ市内の橋として36番目の鋼アーチ橋だ。アーチリブの上も通行可能とすることで、左岸のオルセー美術館近傍と右岸のチュイルリー公園を結んでいる。全体のフォルムはオーソドックスなアーチだが、ディテールの饒舌さがすごい。厚さ140mmの鋼板を梯子のように上下に組んだアーチリブは、スレンダーに見えるように大きく面取りしている。徐々に変化するV字の支柱はU字の断面を有しており、光のあたり方によって表情が変化する。ボルトやナットは使用しておらず、全溶接で構築されている。

ミムラム氏によると、できる限りセーヌ川の風景を阻害しないように透明性を重視しながら、現在の技術でなにができるかということに挑戦し、光と影を演出することで軽量感を表現したという。そこからは、伝統と格式のある美術品のようなセーヌ川の景観に加わることの責務がひしひしと感じられる。

もちろん11年前にパリを再訪した際には、この橋をあらためてじっくり見た。すっかりパリの景観構成要素の一部として馴染んでいたなあ。