はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

階段国道

車が通れない「階段」なのに「国道」。そんな道が竜飛崎にあることを、友人の松波さんが書いた『国道の謎』という本で十数年前に知り、いつか訪ねてみたいと思っていた。それがようやく今年の夏の旅行で実現した。青森県のウェブ情報によると、全長388.2m、段数362段、標高差約70mとのことである。喜び勇んで上り下りしたのだが、日頃の運動不足からヘトヘトになってしまった。

この旅で巡ったいくつかの施設や一部のウェブ記事の情報では、「当時の役人が、現場を見ずに国道に指定した」などという都市伝説がまことしやかに堂々と述べられているが、そんなわけないだろう。あらためて『国道の謎』を読み、国道指定の経緯と松波さんの推測を確認した。

ざっくり整理してみる。もともと小中学校の通学路の「里道」だった車両通行不能区間が県道に指定されたが、この県道はその他にも圧倒的に不通区間が多かったため、ここだけが取り立てて目立つものではなかった。1975(昭和50)年に国道339号に昇格して国庫が投入されることで整備が加速し、1984(昭和59)年に不通区間が解消された。さらにこの頃、青函トンネルの工事用車両が通るための道路も整備されたことで、暫定的に指定されたままだった階段国道の区間は抹消される準備が整った。ところがこの頃に階段国道の知名度が上がり、観光資源として残した方がいいという判断がなされたのではないかと、松波さんは指摘している。さらに、その認識を生んだ要因は、国道標識(通称おにぎり)の存在があったからではないだろうかと述べている。たった数本の国道標識の設置が、極めて珍妙な観光資源を生み出したというコスパに優れる話は、とても納得がいく。

いずれにしても、僕自身もこの階段を青函トンネル記念館をセットで訪問した観光客だ。謎めいた国道は、十分に魅力的な観光地だった。