はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

構築家の展覧会

ふと気付くと、もう10月。行こう行こうと思って油断していた「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」がもうすぐ終了してしまうという焦りから、目の前にある仕事を薄目でやり過ごして、重い腰をあげて行ってきた。これがうわさ通り、とても素敵な展覧会だった。大量の現物が持つ説得力は、やはりすごい。

個人的にジャン・プルーヴェという人物の実作を見たのは、10数年前にヴィトラ・キャンパス内にあるペトロール・ステーション(ガソリンスタンド)のみだったが、洗練された佇まいにすっかり魅了された記憶がある。その時の漠然とした印象が、今回の展覧会で明確な形で自分の中に取り込むことができた気分だ。

工場経営や自治体の長をこなすというマルチタレントっぷりにも驚いたが、なんと言っても「つくれないものをデザインしてはならない」というものづくりへの基本姿勢に感激した。それは、目の前の材料へ真摯に向き合い、そこに内在する各種の合理性を時間をかけて見極め、卓越したエレガンスさを発揮して解く態度。このあたりは、建築家と言うよりも、プロダクトデザイナーと捉えたほうがしっくりくる気がする。いや、それ以上に、橋を手がける構造デザイナーの態度に極めて近いのかな。そもそも自らのことを「構築家」と称していたことからも、親和性が高そうだし。そうすると、エレガンスさの実現に悩む土木の構造技術者たちにこそ、この展覧会を見てほしいね。いまさらで恐縮だけど。

そうそう。会場には若い方々がたくさん来ていて、この機会を逃すまいとじっくり展示物に向き合っている様子がとてもよかったな。僕も気が引き締まった。