はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

建物を受け入れたため池

大阪の隣町、松原市の文化施設が集まるエリアの一角に、ブルータルな建物が水面に浮かぶ池がある。この建物は「読書の森」と称される松原市民松原図書館である。外壁は傾斜のある面で構成され、その不定型な姿は不思議なことに威圧感を感じさせない。赤みを帯びたむらのある色彩や荒々しいテクスチャーも効いているのだろう。館内に足を踏み入れると、分厚いコンクリートに囲まれた空間が広がり、水面と同じ高さに設定されたフロアに誘導される。大きな窓からは豊かな光が差し込み、ため池の存在が体感できる。

ぐるりと取り囲む水面は、この地域に数多く点在する農業用のため池だ。それらは地域の産業や文化の履歴を示す重要な要素であることには違いないのだが、あまり重要視されてこなかった。その数は昭和初期には130箇所以上あったが、主に1960〜70年代に人口の増加と市街化の進展により多くが埋め立てられ、現在ではおよそ3分の1に減少しているという。

この図書館によってため池の風景が日常の中に再度取り込まれ、それを楽しむことが誘発されるようになった。このため池は、まちの中の水辺の価値を再提起し、新たな魅力を付与したと言えそうだ。地域の中に埋もれている資産の役割をアップデートすると、そのランドスケープが地域の新たな核になり得るのだ。