今月の初旬、20年前まで住んでいた札幌を訪問した。いまでも毎年のように訪れているが、いつしか「帰る」という気分は薄れてしまい、すっかり出張に「行く」場所になっている。
関東では朝から半袖がちょうど良い初夏の陽気だったが、小雨が降る札幌の街に到着すると、薄手のコートを纏った人々がたくさんいる春の様子だった。その気候の違いから、日本は南北に長い国土という事実を突きつけられた。用務を終えた夕方にちょうど雨が上がり、最寄りの地下鉄駅に歩いて向かった。住宅地を通っていると、路面に亀甲状の文様がくっきり浮かび上がっていた。先ほどまで降っていた雨がアスファルトのクラックに染みこんだまま残り、はっきりと図像を描いていたのだ。その様子を見て、不意に強い懐かしさを感じて動揺した。
積雪寒冷地の道路舗装は、凍結融解や除雪作業などの影響を受けて、極めて傷みやすい。街の中の雪が溶けるとともに、穴やひびでボロボロになった路面が出現するというのが、北海道の春の風物詩とも言える。立ち止まって周囲を眺めてみると、車道に広がるひび割れやアスファルトの補修跡、除雪車の排土板で破損した歩道の路面や縁石が浮かび上がってきた。これが僕の無意識に刻まれた北海道の春の風景なのだと実感した。