はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

静かな円筒分水工

水稲耕作には水が不可欠。まずは水が得やすい谷地や後背湿地で水田がつくられた。やがて用水路により水を供給する灌漑が行われるようになり、ようやく農地は拡大していった。それは個人でできるものではない。大量の水を確保してそれなりの面積に分配するためには、受益者同士が共同する集団的な行動が不可欠だ。広大な沖積平野に開発された水田の場合には、組織的な労働や公平性が担保される管理などが強く求められることだろう。その営みは、地域の人々のメンタリティにも大きく影響してきたことだろう。

そんなことは少し考えればわかるのだが、なかなか実感が伴わなかった。先週末に岩手県にある巨大扇状地の胆沢平野にて農業関係者の方々からお話を伺い、さらに実際に現地を見て回ったことから、いろいろと腑に落ちて、農地の風景の解像度がググッと増して見えるようになってきた気がする。もちろん、まだ言語化できていないけれど。

上の写真は、胆沢平野のシンボルたる日本最大級の円筒分水工。胆沢川から取水した水を、古くからある二大幹線水路の茂井羅(しげいら)堰と寿庵(じゅあん)堰に分水している。初代は上流の石淵ダム完成後の1957(昭和32)年につくられ、石淵ダムを湖底に抱える胆沢ダムを待ちわびながら、同じ場所に現在の二代目が1995(平成7)年につくられた。もちろん円筒分水工がつくられた背景には、水争いがあったという。

水田に水を張る4月後半から5月初旬は、受益面積7,400haの水田に向けて毎秒16トンの水を流すため、隣の人と会話が成立しない轟音の眺めが見られるとのこと。僕が訪問した先週はすでに通水が終了しており、とても静謐で不思議なミステリーサークルを体験することができた。まあしかし、大迫力の円筒分水工も見たいよね。いい時期に再訪しようかな。