
2016年4月に発生した熊本地震で、黒川を跨ぐ逆ランガー橋の「阿蘇大橋」が崩落した。当時のニュース映像を見て、愕然とした記憶がある。橋が落ちるということは、心理的ダメージが特別に大きいんだよね、かつて橋の設計に携わっていた身として。
その理由は、断層が大きくずれて地盤が橋を圧縮するように動いたことで、アーチを描く下弦材が破壊されたとされている。そのとんでもない力は、写真右上にくっきり見える「数鹿流(すがる)崩れ」と名付けられた大規模山腹崩壊を眺めると、よりはっきりと感じられる。
その被災現場から下流側約600mの位置に、写真中央にあるPC3径間連続ラーメン箱桁橋の「新阿蘇大橋」がつくられた。おそらく被災直後から設計を開始し、架橋位置や構造形式が決定され、同年11月に着工している。そして、2021年3月に完成したという。この立地でこの規模なのに、にわかには信じがたいスピード感。行政、設計、施工などの関係者のみなさまのご尽力には、素直に頭が下がる。
現地を訪れて、まずは地形地質のややこしさに驚いた。事前に地図を眺めても、この立野周辺の地形の状況がイメージできずに、頭が混乱した。なにしろ、とんでもなくでかい阿蘇カルデラの外輪山の一角が、布田川断層の動きで破壊された場所なので、そりゃ普通の様相じゃないよね。カルデラ内部の水はこのあたりからすべて流れ出るのだろう、とても深い渓谷が形成されているし、阿蘇立野ダムという治水を目的とするダムもつい昨年に完成したばかり。河岸には柱状節理も確認できるなど、おそらく何度も火山活動が繰り返されているようで、地質もとても複雑なように感じられる。しかも、黒川の右岸側には活断層が推定されている。つまり、あまり橋を架けたくない場所だな。でも、どうしても黒川を跨がなければならない。しかも大急ぎで。
活断層を乗り越える必要性から選定されたのが、PCラーメンという構造形式だろう。断層が多少ずれても、橋脚から前後に伸びる桁はやじろべえのようにバランスが保たれ、崩落する可能性はずいぶん低減できる。それにしたって写真左下の橋脚の大口径深礎は、難しい諸条件を強引にねじ伏せた迫力が凄まじいね。さらに断層のずれを許容できるように、写真手前から3番目と4番目の橋脚の柱頭部が、横方向にやたらと広くつくられている。その間にある断層が動いても、絶対に桁を落とすまいとする気概が感じられる。
巨大な橋脚を特急で構築するには、24時間対応可能な物資の運搬ルートや作業ができる平場が必須。それを実現するために、谷の両岸の急斜面を盛大に削り取り、巨大なインクラインをつくったようだ。モルタルで固められた痕跡はやや痛々しく感じられるかもしれないが、人が自然に対抗する必死さが現れた眺めと捉えるのが適切だよね。単純に地形を改変するだけではなく、柱状節理を保存する努力が感じられることもポイントかな。言うまでもなく、その他にもこの橋には高度な技術が数多く駆使されている。
「新阿蘇大橋展望所 ヨ・ミュール」から眺める風景からは、そんな濃密な情報を読み解くことができる。ちなみに「よみゅーる」とは「よく見える」という意の熊本弁とのこと。今回はあまり時間が取れなかったので、あらためて再訪してじっくり堪能したいな。気になったのは、あっという間に退色している案内板かな。せっかく新阿蘇大橋の有益な情報を掲載しているのに、ちょっともったいないよね。