はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

頂上の地下配水庫

香港に行く直前に空港ラウンジで、街並みを見下ろせる場所がないものかとGoogleマップを眺めていた。すると深水埗の近くに「前深水埗配水庫(Ex-Sham Shui Po Service Reservoir)」と記載された丘を見つけた。クリックしてみると、その画像の魅力と得体の知れなさに、がぜん色めき立った。どうやら近代の水道施設らしいが、不思議な遺跡感がものすごい。1904年に完成し、1970年代に廃止され、2020年に解体寸前で「発見」されたって?なにそれ?どういうこと??なにやら入場制限があるかもしれないが、立ち入りできるらしい。これは体験しないといかんよね、ということで下調べもろくにしないまま、現地を訪れた。

深水埗の街から少し坂を登った所にある、すごい遺跡への入り口とは思えない階段を、躊躇しつつ登りはじめた。想像以上のハードなハイキングコースを10分ほど登ると、なにやらものものしいフェンスにたどり着いた。息切れしながら掲示などを眺めてみると、そこには上限人数、場内人数、入場可能人数の表示があり、どうやら100人以上は入れないようだった。僕が訪れた時は場内人数が39人だったので、難なくゲートを突破できた。最後の階段を登ると、丘の頂上に広がる広場に至ったが、眺望は全く開けていない。そして仮設感が漂うエントランスから階段を降りると、そこには画像で見たレンガアーチが幾重にも連なる遺跡空間が広がっていた。いやこれはすごい。まじで来てよかった。

一昨年に香港を訪れたとき、この都市は水を得るためにずいぶん苦労しているはずだと感じた。なにしろ大きな川がない地形なのに、信じられないほどの人口密度の巨大都市なわけで。井戸水や天水ではあっという間に限界が来るもんな。今回の旅であらためて情報を得てみると、やはり水を得るための戦いは相当なものだったようだ。

香港島では水道用のダムが1860年代からつくられはじめた。九龍半島でも整備が進められ、1900年代にイギリス式の水道システムが構築された。山の中に大きな「九龍水塘」というダムで貯水池をつくり、そこからいったん各地の配水庫を中継して、都市に分配するという仕組み。基本的に重力による自然流下システムとのこと。この「前深水埗配水庫」はそのシステムのひとつなわけだ。

現地に行っていろいろわかったけど、さらに疑問も生まれた。なんで最近になって「発見」されたのかってこと。これは、第二次大戦後の大量移民で人口が爆発的に増加した結果、それまでのシステムでは全く立ちゆかなくなって、より大きなダムをつくったり、中国本土から水を輸入しはじめたことに起因するっぽい。つまり、システムを大幅更新した結果、古いシステムがあっという間に忘れ去られたということらしい。それが、最近になって水務署が土地を返還するために解体工事をはじめたところ、その歴史的価値が「発見」されたのだという。

ウィキペディアの中国語版にはそこら辺のすったもんだがいろいろ書かれているが、どの程度正確かは判断しかねるので、ここでのコメントは控えておく。とにかく、これだけの近代化土木遺産を見学可能な状態で保存していることは、素晴らしいと感じた。いろいろ気になるところはあるにせよ。香港に行かれる方には、ここを訪問することを強くおすすめする。訪れる際は公式サイトなどで最新情報を確認してくださいね。