はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

きれいな城砦

九龍城砦公園に行くと、まずテンションが上がるのがブロンズの鋳物っぽいミニチュア模型。これがまた、とんでもなく出来がいい。みっちり詰まった違法建築物群の塊感がそのまま立ち上がっていて、背後にある断面図とセットで見ると、カオス空間の内部に折り重なっていた生活の層まで見えてしまう。映画『トワイライト・ウォリアーズ』で予習していたから、なおさらだ。

そして、「九龍城寨:映画の旅」展という同映画のセットの再現なのか移設なのかよくわからないが、無料で公開されている展示施設を堪能した。これが想像を超えて良く出来ていて、思った以上に楽しめた。15分間の時間制限は短いかもなあと思っていたけど、展示スペースが大きいわけではないので、ちょうどよかったな。先ほど見たブロンズっぽい模型の中に入り込んだ、妙に生々しいリアリティを感じることができた。

その後に近くのショッピングモールに入ったら、明らかに九龍城砦の記憶をアーカイブしようとしている壁紙に出くわした。あれだけ特異で、ある意味ではネガティブに語られてきた存在なのに、いまではかっこいいモチーフや、懐かしい思い出として扱われているようだ。映画での描き方も人々のつながりや力強い営みが強調されて、ずいぶん好意的だったし。単なる無法地帯のスラムとして切り捨てていない感じがある。

となると気になってくるのは、このリスペクトの正体だ。あの超高密度の中で成立していた生活や、制度の外側でなんとか回っていた細やかな秩序が積み重なって生まれた無秩序に対して、人はなんとなく惹かれてしまうのかもしれないし、イギリス統治時代の郷愁を引きずっているのかもしれないね。当時の城砦は凄まじい臭気が充満していたらしいが、いまではきれいさっぱりなくなっているし。