はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ムショ壁の地層

香港の中環にある大館(Tai Kwun)がとても面白かった。ここはかつての警察本部、中央裁判所、監獄を改修しつつ、ヘルツォーク&ド・ムーロンによる現代建築も挿入されたアート系の複合施設だ。香港らしい急傾斜地に立地しており、新旧の豪勢な建物が過剰な立体感を伴って入り交じる環境は、歩いているだけでもワクワクする。もちろん、振れ幅が大きいさまざまな展示物や各種ショップも楽しい。

最も高い場所にある「監獄操場(Prison Yard)」には、監獄らしい高い壁がそびえ立っている。その表面をよく見ると、大柄な石材の下部、細やかな石材の中部、コンクリートの上部の3種に分けられる。おそらく、斜面を削って平場をつくった初期の土留め擁壁の上に、監獄のセキュリティ強化や収容人数増加の必要性に迫られ、時代とともに成長していったんだろう。さらに、高くなりすぎてしまった壁を支えるために、後からコンクリートの控え壁(バットレス)を追加したのかもね。つまり、セキュリティや都市環境の進化が可視化された地層なのかな。

かつては受刑者たちが活動していたこの空間は、ゆったりした時間が流れる居心地のいい広場になっている。超高密度都市が過去の遺構を飲み込んで、新たな価値が生み出された見事な事例だ。これが無料で開放されているって事実も素晴らしいよね。

この記事を書きながら知ったのだが、「ムショ」という言葉は「刑務所」という言葉がつくられる以前から用いられていたようだ。つまり、刑務所の略称ではないんですって。そもそもの由来は諸説あるっぽく、関連するweb記事を眺めているだけで、ずいぶん時間が経ってしまった。