はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

佐久の上海の現在

長野県佐久市に行く機会を得た。これから長いお付き合いができるようにと、前乗りしてまち歩きをしようと思い立った。行き先を決めるため、まずはGoogleマップを眺めてみたのだが、これがなかなか掴みどころがない。新幹線の停まる佐久平駅周辺は、いかにも新しく整備された平成の街。市役所周辺はどうなんだろうかと航空写真を見てみると、農地がパッチワークのように点在する郊外っぽい風景。どこがこの街のコアなのかがピンとこない。もしやこれは、昭和の大合併によって生まれた市なのかなあと思いながらも、ようやく気になるエリアを見つけた。

それはJR小海線の中込駅前。T字型に展開する、ずいぶん大規模な歩行者専用道路らしき街路がある。何でここにこんなものが。よくわからないモヤモヤした印象を抱えながら、現地に乗り込んだ。すると、第一印象から明確な違和感を憶えた。

日曜の昼下がり、人通りは極端に少ない。明らかに営業していない店舗がやたらと多い。それにしては稼働しているカフェ率が高い気がする。すべてが歩行者専用の空間だと思い込んでいたら、駅側のエリアは一方通行の道と駐車場になっている。昭和感溢れる懐かしい雰囲気の装飾が、建物や作工物にあふれている。同様に昭和感溢れる魅力的なネーミングのお店や魅力的な書体の看板が数多く見られる。それらに混じって、令和の若者が集いそうな謎にオシャレな空間がポツリと現れたりもする。広い街路空間の中央に、濁った水を湛えた水路的演出もある。路面に目をやると、花柄を丁寧にトレースしたカラーコンクリートブロック舗装と、その隙間で生き延びる雑草たちが。さらに裏通りに行くと、街の規模に不釣り合いなほど密集するスナック街に驚く。市街地を一歩離れれば、ゆったりとした敷地の立派な戸建て住宅が並び、水を張ったばかりの水田に感嘆する。

なんというか、寂寥感はあるけど、悲壮感はあまりない。単なる「衰退」とは少し毛色が違う印象なんだよな。これってどういうことなんだろうと思いながら、ホテルのフロントでオススメされた居酒屋に行ってみた。地元の日本酒を飲みながらお店の方と話していると、隣に座っていた御年82歳になる街の生き字引的老人を紹介してくださった。たいへんありがたいことに、彼のレクチャーによって僕の違和感は氷解し、本当に楽しい時間を過ごすことができた。

この街は大正期の小海線の開通によって、物資集散の拠点として爆発的に発展した。それは自然発生的なもので、カオスを伴うものだったようだ。どうやら彼が20歳になる前まで赤線もあったらしい。それが昭和50年前後に、迷路のようだった市街地を「土地区画整理事業」と「商店街近代化事業」によって大きく再構築したとのこと。それこそが昼間に歩いた「グリーンモール」の正体だった。当時、この規模の地方都市でこれほど先進的なモール化を行うのは異例であり、全国から視察が相次いだという。実際に「佐久の上海」と称されるほど、大いに賑わっていたらしい。

そこからの転機は、新幹線の開通だった。物流人流拠点としての機能はごっそり佐久平駅周辺に移動し、かつての繁栄は失われた。特に物販の店舗への影響は大きく、営業をやめた店舗が増えたとのこと。しかし、上階の住居には高齢化した店主が住み続けているので、人口減少は見た目ほどではないそうだ。料飲の店舗はかつての勢いはないにせよ、横ばいとのこと。なるほど、この居酒屋にもしっかりお客さんが入っているもんな。そして現在、グリーンモールのリニューアルプロジェクトが新たにはじまっているという。

中込の街は、日本の社会が直面している課題を常に「先取り」してきたんだな。その風景を眺めることで、次の社会に向けてのヒントが得られるかもしれないんだな。このタイミングで全国からこぞって視察に来てもいいわけだ。現地を自分自身で体験し、現地の方にお話しを伺うことで、いろんなことが腑に落ちた。実にいい旅になったな。