はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

石器と換気塔

群馬県と長野県の県境付近にある、上信越自動車道の八風山トンネルの換気塔。もちろんフェンス越しに眺める他はないが、標高1,000mを超える深い緑の中にひっそりと佇むタワーは、現役の施設でありながら、どこか孤高の廃墟のような濃厚で静謐な魅力を放っている。

ただでさえ気になるこの場所からは、トンネル建設に先立つ調査で3万年以上前の地層から石刃が見つかり、「香坂山遺跡」と呼ばれることになった。そして、近年あらためて実施された再調査によって、大型石刃の製作跡や石器の集中地点、礫群などが続々と発見され、考古学において極めて重要な遺跡であることが明らかとなった。

何がすごいのかというと、これまで判然としなかった日本の石刃文化のルーツが、ユーラシア大陸由来であることが示されたこと。つまり僕らの先人たちはアフリカを出発した後に、1万年以上かけて高度な技術を培いながら、約3万7千年前に日本の山中にたどり着いた足跡が明示されたってわけだ。しかもこの地は、「日本で海岸線から一番遠い地点」にほど近い。多少は地形が変化しているにせよ、最果ての山奥に構えた生産技術基地であったことには違いなかろう。

現代の経済と物流を支える大動脈としての高速道路が、地球スケールを移動してきた太古のフロンティアたちの足跡を暴き出した。考古学って無条件にロマンを感じてしまうけど、現代技術の象徴たるコンクリートのタワーが旧石器技術の象徴と重層して見えるなんて、最高にしびれるよね。