はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

消える橋

f:id:hachim:20180716151107j:plain

最近、あちこちで長崎の「出島表門橋」が話題になっている。日本の橋梁界で最も権威がある土木学会の「田中賞」も受賞しており、以前から見に行かねばと思っていた歩道橋だ。国指定史跡である出島の復元に関する事業の一環で、ネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一氏を中心とする設計チームが手がけている。

ご本人の話を含むいろんな情報を見聞きしていると、全体から細部に至るまで極めて高いクオリティの構造物が日本でも実現できたこと、設計から施工や運用に至るまで一貫したオリジナリティが実現して保たれていること、これからの地域のコアを担っていく可能性がとても高いことなどが、評価ポイントとして浮かび上がってきた。

もしかすると自他ともに褒めすぎなんじゃないかなあと、穿った見方を心がけて鼻息荒く現地に乗り込んだわけだが、あっさり頭を垂れて橋がもたらす風景に見入ってしまった。これはちょっとヤバい橋だぞ、と。日本の橋梁整備を取り巻く停滞した環境に、大きな一石を投じていることを強く確信した。未見の方は、長崎旅行の予定に入れることをオススメするよ。出島対岸の公園にはミッフィーがたくさん隠れているので、捜索も含めてちゃんと時間を確保しようね。

事前に渡邉さんから聞いていたけど、現地であらためてびっくりしたことは、ヌルッとした風景への溶け込み方だ。目の前にあるはずなのに、見えない。モーメント図を再現した中路桁の構造フォルム、ダークグレーの塗装色、強い影を落とす水平方向のスティフナー、無数の穴が空けられたウェブ、そこに一体化した櫛状の高欄など、さまざまな要因がすべて風景に溶ける方向に作用している。

上の写真を見返してみても、奥にある現役最古の鉄製道路橋「出島橋」の繊細なトラスのほうが確実に存在感があるもんなあ。以前から何度も申し上げているとおり、ネイの橋は写真に撮りにくいってことが、ここでも示された格好だね。

 


佐賀の土木展

f:id:hachim:20180714144125j:plain

2018年7月25日(水)から 9月 2日(日)まで、佐賀県立博物館にて『すごいぞ!ボクの土木展』が開催される。佐賀にゆかりのあるクリエーターやアーティストの方々による体験型作品を中心とする、土木を楽しむための展示会だ。小さいお子さまから大きな大人まで楽しめる仕掛けが満載なので、この夏は思い切ってこの展覧会に行くとともに、佐賀のドボクを見に行こう。

ディレクターは佐賀出身の建築家・西村浩さん。六本木の21_21 DESIGN SIGHTおよび上海の藝倉美術館で開催された『土木展』も手がけられた。土木と社会を接続するための新たなチャンネルを、体を張って「土木を面白がる」ことで開拓している方のひとりだ。その方針に大賛成の僕も、たいへん光栄なことにアドバイザーとして参加させていただいている。昨年からたびたび佐賀を訪問しては、このブログに自慢げにアップしているのはこのためだ。

体験型ワークショップなどもたくさん予定されている。その中でも8月11日(土)は外せないよ。なにしろ、西村さんと僕のトークショー「佐賀のドボクを見に行こう!」と、無料のバスツアー「佐賀の土木遺産ツアー」があるので。ツアーは当日受付の先着20名。

なお、会場の佐賀県立博物館は、とてもかっこいい。アグレッシブな概観、立体的でSF的な空間構成、プレキャストコンクリートや鉄骨部材の上手な使い方などなど、見どころ満載だよ。土木展との親和性も、とても高いと思うな。

saga-museum.jp

 

江戸時代の水システム

f:id:hachim:20180709162936j:plain

唐津湾に注ぎ込む松浦川の中流域に広がる水田地帯に、「桃の川水路」という地味ながらも素晴らしい利水施設がある。佐賀では知らない人がほとんどいないが、佐賀以外ではほとんど知られていない成富兵庫重安(なりどみひょうごしげやす)の手により、江戸時代初頭につくられた施設だ。この人は主に鍋島家の家臣として戦国時代に数々の武勲を上げ、40歳を越えてから治水・利水事業を手がけるようになり、神レベルの仕事をたくさん行ったという。

「桃川水路」は、上流の高い位置にある井出から取水し、松浦川の下を「馬頭(うまんかしら)」と呼ばれるサイフォンで立体交差させて、用水の確保が困難だった対岸の水田を潤している。つまり微妙な地形を読みきって、創意工夫を重ねて使える土地を増やしているわけだ。もちろん補修を繰り返して使っているのだろうから、完全なオリジナルというわけではないようだ。この馬頭の写真だけではなんともわかりにくいけど、システム全体を概観するとかなり感激できるよ。