読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

抽象彫刻発電所

電力 形態

f:id:hachim:20160822111928j:plain

ドイツアルプスの麓の街、ケンプテンにある2010年に竣工した水力発電所を見に行ってきた。地元の建築設計事務所のベッカー・アーキテクトの設計。たいへんありがたいことに、ケンプテンに住む友人の取り計らいで、施設のガイドツアーにも参加させていただくことができた。

発電施設とは思えない、見られることを強く意識した装い。粗いテクスチャーを持つコンクリートのカバーは、各種施設を有機的な造形でつないでいる。外側の見た目だけでなく、見学者のテンションを高める内部空間も手が込んでいる。

造形コンセプトは、水流によって磨かれた岩とのこと。なるほど、全体のフォルムからディテールやテクスチャーに至るまで、しっかりコントロールされている。そして意外なほど、周辺景観にもマッチしている。

しかし、施設の基本的な配置は水力発電のための技術要件で決定する部分が多いので、表層に造形物の上物をかぶせたに過ぎないのでは、という第一印象はぬぐえない。実際に、一部分はなんの機能も受け持っていないばかりか、災害時には外すようになっているそうだ。

残念なのは、施設全体を眺められる視点場がないこと。これは致命的。造形物は全体も眺められて、はじめて評価の対象になるもんな。なお、上流に架かる鋼トラスで補強した木トラス橋からは見えそうなのだが、長らく補修工事が行われているようで、残念ながら現在も立入禁止が続いている。

なお、数年前に見た記事(ArchDaily|Hydro-electric Powerstation / becker architekten)の写真は、おそらく完成当時の真っ白に輝く艶かしい姿であり、ものすごく強いインパクトがあった。粗い表面仕上げが手伝って、現在はかなり黒ずんでいる。おそらく意図的だとは思うが、5年後10年後にどんな姿になっているかを確かめたい。最初が一番よかったね、なんてことにはなってほしくないもんな。

<参照>スパン35メートルからのデザイン・ブログ|土木デザインのマイルストーン - ケンプテンの水力発電所 その1スパン35メートルからのデザイン・ブログ|土木デザインのマイルストーン - ケンプテンの水力発電所 その2

ブルータリズム教会

建築 素材

f:id:hachim:20160820204632j:plain

アルプスの山々に囲まれた深い谷にあるクール(Chur)という街で、コンクリートでつくられた面白い教会を訪問した。デジタルテレビのブロックノイズか、終盤で失敗したテトリスか、マインクラフトの世界で作り上げたのかと思うほど、なんとも荒々しい造形の教会だ。

名前はハイリッヒクロイツキルヒェ(Heiligkreuzkirche:聖十字架教会)、完成は1969年、設計はヴァルター・フォェルダラー(Walter Förderer)。外側も内側も、ブルータリズムに位置づけられるだろうやりたい放題の力強い造形に、好きか嫌いかはさておき、完全に圧倒された。

何年か前に、世界最大の重力式コンクリートダムのグランド・ディクサンス・ダムのをリスペクトしてつくられたというコンクリート教会のことを知り、少し調べたらこの教会に行き当たった。今回の旅でクールを訪れることから、ぜひ見てみたいと思って行程に組み込んだわけだ。この教会、ネット上で日本語の情報をほとんど見つけられなかったんだけど、もう少し有名でもいいよねえ。

そういえば、今回はカーナビにグーグルマップを使用したのだが、Churを「チャー」と発音していた。たとえば「16番チャーノルド出口をチャー方面に」などと、最初は何のことだかさっぱりわからず、そのたびにツッコミを入れ続けることになった。なお、ドイツ語だと「クゥァ」か「フゥァ」という発音が近いと思う。まあどっちでもいい話だな。

大人の質感

風土 鉄道

f:id:hachim:20160818072928j:plain

チューリッヒ中央駅はもともと大きなターミナル駅であるが、2014年頃(未確認)には通過式の路線が地下につくられたようだ。それ以前にも改修に次ぐ改修が行われてきたんだろうね、順次拡張してきた痕跡が随所に見られる。

ところが、見た目や利用に関して、全く破綻が感じられない。各種のデザインコードが遵守されているというよりも、基本的なデザイン水準が高いレベルで保たれているためだろうな。使用している素材の品質も高い。空間の構成や構造物の造形も明解に整っている。サインなどの誘導も統一されていて、コツさえ飲み込めばすぐに理解できるようになる。

スイスのパブリックデザインを一言でまとめちゃうと、「大人のクオリティ」ってことに尽きると思う。それは、設計や施工などの「つくる側」のみならず、利用者や管理者などの「つかう側」の態度にしっかり根ざしているように感じる。永世中立国を維持するために世界最強と言われる軍隊を保有し、徹底した秘密主義を貫く謎の国の文化に根ざしているんじゃないか。