はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ダム

記憶の改ざん

1900(明治33)年につくられた、日本初の重力式コンクリートダム「布引五本松堰堤」。埋設型枠として用いられた間知石が、素晴らしい味わいを生み出している、近代水道の礎を築いた重要施設のひとつだ。神戸を訪れた際には、見に行かねばならない場所である…

新ダムの活躍

この夏も全国各地で豪雨の被害が頻発している。異常気象がすっかり常態化してきたようだ。中でも、長期間断続的に降り続いた東北北部の豪雨は、自分の夏の旅行の対象地にしていたこともあって、印象に強く残っている。旅行中も雨に降られることがたびたびあ…

静かな採石場

松山の石手川ダムのフーチング。その巧まざる立体構成が見事すぎて、胸が高鳴る。 ダム堤体の大きなカーブとフーチングの直線、極めてシャープでダイナミックな陰や影、コンクリートのかたまり感と手すりや植生に見られる繊細さ、岩盤の複雑なテクスチャーと…

水没する美ダム

1週間ほど前、衝撃的な事実を知った。なんと、スイスのグリムゼル峠近くにある水力発電用の重力式アーチのグリムゼルダム(Spitallamm Dam)の直下流に、23m高い新たなダムが建設されはじめたという。つまり、1932(昭和7)年に完成した階段状のかっこいい…

ブロックノイズ的立体構成

ダムの堤体が地山に接続する箇所は「フーチング」と呼ばれており、その様子は千差万別である。ダムの見どころはたくさんあるけれど、個人的には強く惹かれる箇所だ。覆土や緑化によってその存在を上手に隠しているものもあれば、全く無頓着で生々しいコンク…

橋梁景観とは別の話

波形鋼板ウェブを用いたエクストラドーズド橋である近江大鳥橋を再訪した。まあ前回の2004年時点は建設中だったので、完成後の姿ははじめてだ。まるでエヴァンゲリオンに出てくる使徒のようなエグみのある造形は衰えていないどころか、凄みを増していた。 そ…

基幹産業ダム

たいへん幸運なことに、ブータンでの集落調査の研修として、1986年につくられたブータン初の水力発電用ダム「チュカ水力発電所(Chhukha Hydropower Plant)」の見学が許可された。天端も堤体内部も下流側も、たっぷり時間をかけて堪能させていただいて大興…

嘉瀬川くん

逆三角形に配置された三点があると、人の顔に見えることがある。これは「シミュラクラ現象」という言い回しで広く知られている。 佐賀県にある嘉瀬川ダムのオリフィスゲートと空気管らしき2つの丸い穴は、いかにもそれっぽく感じられる。しかも、( ゚ロ゚)ハッ!!…

ダム前の橋

カリフォルニア州のオロビル・ダムの非常用洪水吐きに大きな穴が発生し、さらなる大きな災害に備えるために大規模な避難命令が出されたことが報じられた。甚大な被害をもたらしかねないダム災害に思いを馳せていたところ、イタリア北部のヴァイオント・ダム…

歩道橋付き堰

パリ郊外。セーヌ川に合流する少し手前のマルヌ川に、堰とセットになった「サン・モーリス歩道橋」が架かっている。路面全体が太鼓橋のようになっており、全体的にエレガントな雰囲気が漂っている。装飾も多いし。マルク・ミムラムが手がけた橋を見ると、フ…

スイスダムツアー

【本ツアーは中止となりました。。。残念!!(追記:6月30日)】 お知らせのタイミングが少し遅くなってしまったが、素晴らしいツアーが行われようとしている。その名もずばり、『スイスダムツアー(JTBのチラシのpdf)』だ。もちろん監修は『ヨーロッパの…

ラビリンス

岡山県にある苫田ダムの非常用洪水吐は、「ラビリンス型自由越流」という日本で最初に採用された形式。越流部の延長を確保するためにジグザグに構成して放流量を増やすとともに、越流同士をぶつけて減勢するというもの。まあ説明は若干ややこしいけど、とに…

見事な扇状地

昨年の秋に札幌に行ったとき、飛行機の窓から絵に描いたような扇状地を眺めることができた。胆沢川によって奥羽山脈が削られ、その土砂が放射状に堆積したというジオスケールのダイナミズムが、視覚的に理解できる。 このような地形はたいてい水はけがよく、…

デザインの勝利

今朝はいつか行かねばと思い続けてきた岡山県にある「苫田ダム」を、ようやく見に行ってきた。一昨日に訪問するつもりでいたのだが、雨天のため急遽予定を変更したことが功を奏して、快晴に恵まれた。 このダム、なにかと整っており、かっこよすぎて困った。…

格子のダム

自分が一番好きなダムってなんだろうか。まあ一番なんて決められないよね、みんなそれぞれ好きだもの。とは言え、僕の場合は若干の傾向はある。膨大な水圧に対して圧倒的なボリュームで対抗するものよりも、使用する材料を最小化しつつ構造で対抗するものが…

下調べが大事

エッフェルが設計した三日月アーチの鉄道橋「ガラビ橋」を見に行く際、比較的近くに「グランヴァルダム(Barrage de Grandval)」という風変わりなマルチプルアーチ(例えば豊稔池堰堤がこの構造形式)のダムがあることを知った。ほかにもいろいろと見に行く…

ロールプレイング分水工

大型連休に秋田を訪問した際、かつて設計に関わっていた「角館バイパス」という道路をじっくり見てきた。バイパスなだけに市街地からは少し離れていたので、連休の有名観光地なのに混雑とは無縁だった。もちろん有名な武家屋敷通りにも人ごみにビクビクしな…

東北の美ダム

かつて秋田市の発展を支えた水源地の藤倉ダムは、1911(明治44)年から使われはじめて、1973(昭和48)年に引退した重力式コンクリートダムだ。堤体の直上に架かるトラス橋や右岸側の岩をぐるりと迂回する放水路などの周辺施設も現役当時の姿のままに残され…

ダムの再開発

先週の金曜日から土曜日にかけて、台風19号が迫る鹿児島に行ってきた。目的地である川内川の「曽木の滝分水路」の取材を済ませ、対応してくださった方にこの周辺での見どころをお聞きしたところ、「下流にある鶴田ダムで、堤体に穴を5つ空けているダム再開発…

円筒分水工の必要性

円筒分水工ってのは、水争いがシビアな地域の象徴として捉えていた(参照:可視化された公平性)ので、水がとんでもなく豊かな富山平野には縁遠いと思い込んでいた。なので、富山県の方から東山円筒分水槽の存在を聞いたとき、よく理解できなかった。よくわ…

狭小国家の水資源

F1グランプリが開催されたシンガポールの観光スポット「マリーナ・ベイ」の一帯からは、広大な水面にそぐわない違和感を強く覚えた。周辺をさらっと歩いた訪問初日には、マリーナ・ベイ・サンズをはじめとするトンデモ建造物たちがそう感じさせているのだ…

コンバイン砂防堰堤

立山カルデラの出口を守る白岩堰堤は、右岸側が越流部を持つ重力式コンクリートダム、中央部が非越流部を持つ重力式コンクリートダム、左岸側がアースダムで構成された、いわゆる複合構造の「コンバインダム」である。地形地質の特徴に合わせつつも経済的合…

モニタリング触手

昨年の夏、奥利根のダムを一気に巡るツアー(参照:ある少年の夏の日)を行った。その際、滅多なことでは立ち入ることができない場所を、水資源機構の方々にご案内いただいた。矢木沢ダムの堤体直下にも潜入し、圧倒的なコンクリートアーチを下から見上げる…

作品としての樋門

先日四国に行った際、当然のごとく「豊稔池堰堤」を詣でた。おそらく15年ぶりくらいになると思う(城砦ダム)。相変わらず、地元の農民たちが積み上げたという黒々とした石材と、モルタルから染み出した白華のコントラストが生み出すテクスチャーがたまらな…

贅沢コンボセット

愛媛の別子銅山に行こうと地図を眺めていたら、くるりと円を描くすてきな道がたまたま目に入った。鹿森ダムの上下流の高低差を解消するためのループ橋だ。これは見に行かなければと、迷うことなく立ち寄った。 同様のロケーションは、小樽の朝里ダムや秩父の…

サイボーグ化した岩盤

アーチダムってのは膨大な水圧をアーチ構造で受けて岩盤に伝えるため、両岸が頑強な谷にしかつくれない。このため、アーチダム鑑賞の際は、ドーム曲面の美しさを愛でるとともに、堤体が突き刺さっている大地のがんばりがひとつの見どころである。 なかでも長…

雪のダム

富山の小牧ダムを再訪した。ここ1年の間に3度も訪れている。いつも違う表情を魅せてくれるが、今回も全く寒さを感じないほどにすてきだった。うっすらと表面を覆う着雪と黒っぽいコンクリート堤体とのコントラスト、静謐な冬景色と豪快な放流のコントラスト…

ダム教霊廟入口

長野県伊那市にある美和ダムの直下には、まるで宗教施設のような神々しい気配を身に纏った施設がある。より神聖な場所につながっているように思えるトンネル、そこから地下に誘われるかのような階段、容易に人を寄せ付けない馬蹄形に構築されたばかでかい階…

可視化された公平性

明治の終わりに発明され、昭和初期にかけて全国に普及した「円筒分水工」は、それぞれの農地に対して、水を公平に分配するための画期的な施設だった。 円筒の中心に水をサイフォンで噴出させて、外側を取り囲む壁の穴を越流させ、その際に分配比率に合わせて…

赤ラインのダム

札幌の治水と利水の要である豊平峡(ほうへいきょう)ダム。今回の札幌出張に合わせて、強引にスケジュールに放り込んだところ、すでに様々な弊害を引き起こしつつある。やばいなーと思いつつも、現実逃避のためにとりあえずブログをしたためることにした。 …